[出典] "Structural variants of AcrIIC5 inhibit Cas9 via divergent binding interfaces" Hong SH, An SY [..] Suh SY. Structure. 2025-01-17. https://doi.org/10.1016/j.str.2024.12.014 [所属] Dept Department of Agricultural Biotechnology (Seoul National U), Biopharmaceutical Research Center (KBSI), Advanced Analysis Data Center (KIST)
CRISPR-Casは、侵入してきた外来核酸を破壊するためにRNAガイド・エンドヌクレアーゼを用いる細菌防御システムである。バクテリオファージは、感染時にCRISPR-Cas防御を回避するために抗CRISPR(Acr)タンパク質を産生する。Acrsの中でAcrIIC5はタイプII-C Cas9を阻害するが 、その二種類のオーソログはそれぞれ局所的なバックボーンのフォールドに特異的な構造変異を帯びている。韓国の研究チームが今回、そのフォールディングの変異が、標的Cas9の阻害に及ぼす影響を明らかにした。
2種類のAcrIIC5オーソログ
Simonsiella muelleri 由来のAcrIIC5Smuは、Haemophilus parainfluenza Cas9(HpaCas9)およびNeisseria meningitidis Cas9(Nme1Cas9)のヌクレアーゼ活性を効果的に阻害する[*1]が、クライオ電顕法で再構成されたNme1Cas9との複合体構造 [*2]から、AcrIIC5SmuはNme1Cas9の標的DNA結合部位を占有していることが示された。さらに、Neisseria chenwenguii 由来のAcrIIC5Nchの構造がX線結晶構造解析によって決定された [*3]. 2つのAcrIIC5オーソログは共通のCas9を強力に阻害したが、らせん状の折り畳みにおいて明確な構造の違いを示し、AcrIIC5Smu のCas9阻害の鍵となる残基が、AcrIIC5Nchでは一部失われていた。
研究内容
韓国の研究チームは、AcrIIC5の構造バリアントがそれぞれに特有な結合界面を利用して共通の標的Cas9を認識しているという仮説を立て、実験を進めた。
まず、核磁気共鳴を用いてAcrIIC5Smuの溶液構造を決定したところ [*4]、AcrIIC5Smuのフォールドは自由状態とNme1Cas9との複合体の間で変化しないことが示されたことから、AcrIIC5SmuとAcrIIC5Nchの間に観察された構造の違いは、局所的ならせんフォールドに特徴的なインデルに起因することが明らかになった。
次に、AlphaFold2を利用して、AcrIIC5SmuとAcrIIC5NchのHpaCas9に対する一連の界面残基を同定し、突然変異導入と生化学的アッセイにより阻害の鍵となる残基を同定した。驚くべきことに、標的Cas9への結合の鍵となる残基は、らせん領域で特定され、構造的な差異をもたらしていた [論文 Figure 5 参照 ]。こうして、AcrIIC5のオーソログは、共通な界面およびそれぞれに特有な界面を介してCas9と相互作用することが明らかになった [論文 グラフィカルアブストラクト参照]。
こうした結果は、Acrタンパク質が、構造変異を介してCas9に相互作用する界面を多様化することで、細菌防御システムのエフェクターであるCas9表面の変異に適応してきたことを、示唆する。
[*]
- CRISPRメモ_2018-12-07 [第4項] 抗CRISPRタンパク質AcrIIC4とAcrIIC5により、バクテリアとヒト細胞においてCas9を阻害する
- crisp_bio 2023-01-25 抗CRISPRタンパク質AcrIIC5は、PAMの認識を阻害することでタイプII-C Cas9エフェクターを抑制するdsDNAミミックである;AcrIIC5Smu PDB 8HJ4 CryoEM structure of an anti-CRISPR protein AcrIIC5 bound to Nme1Cas9-sgRNA complex
- crisp_bio 2023-02-11 抗CRISPRタンパク質AcrIIC5は、標的DNA結合ポケットを占拠することでCRISPR-Cas9を阻害する;AcrIIC5Nch PDB 8F3K Anti-CRISPR protein AcrIIC5 inhibits CRISPR-Cas9 by acting as a DNA mimic
- 本研究で決定されたNMR構造:AcrIIC5Smu PDB 8JB9 Solution structure of Anti-CRISPR protein AcrIIC5 (Solution NMR)
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