crisp_bio

論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

2025-06-12  RFK, Jr長官、ACIPの新たな委員8名を指名:Dr. Joseph R. Hibbeln, Martin Kulldorff, Retsef Levi, Dr. Robert Malone, Dr. Cody Meissner, Dr. Michael A. Ross, Dr. James Pagano, Dr. Vicky Pebsworth
 NPRの記事に8名の専門家像が紹介されているが、いずれも、ワクチン懐疑派/mRNAワクチン反対派、そしてまたは、ロックダウンやマスク着用といったCOVID-19予防策を批判していた人物のようだ。また、1名はAPIC委員の経験があるが、RFK, Jr長官が前委員会のメンバー全員を解任した理由であった製薬会社と利益相反[*]にあることを、当時開示していた人物である。

[*] 製薬会社などと何らかの関係があっても利益相反を開示することでACIPのメンバーとして認められる場合がある。ただし、会議の席では、関連する製品に関する議論や投票からは退席することが求められる。
 なお、委員会の定足数は定員(19名)の半数以上とされていることから、このままでは、委員会としては成立しない。
[出典] NEWS "RFK Jr. names new slate of vaccine advisers after purging CDC panel" Stone W, Huang P. NPR 2025-06-11 https://www.npr.org/sections/shots-health-news/2025/06/11/nx-s1-5430870/cdc-vaccine-experts-rfk-jr

2025-06-10
RFK, Jr長官、CDCワクチン諮問委員会 (Advisory Committee on Immunization Practices: ACIP) の17人全員を解任
[出典] ”US Health Secretary Kennedy Guts Vaccine Advisory Committee” Aboulenein A, Erman M, Steenhuysen J. Reuters (日本語版). 2025-06-10.
https://jp.reuters.com/world/us/QT46IYMLVNPLJBJNKPRI32FS7A-2025-06-09/
 長官は声明で「私たちは今日、特定の賛成派、反対派を問わず、国民の信頼を回復することを優先している」とし、「透明なプロセスを通じて評価し、利害の対立から隔離された公平な科学が私たちの保健機関の勧告を導いていることを国民は知らなければならない」と主張した。解任された委員の一人は「ACIPは「私の知る限り、最も厳格な利益相反ポリシーを有する組織だ」と述べている。
 次回ACIPは6月26-27日にアトランタで開催される予定であるが、一般に公開される [World Wide Webでwebcastされる] 。どのような委員がどのように発言するか興味深い。

2025-06-09 RFK, Jrはクリニックで未検証の幹細胞治療を受けたことを認め、幹細胞療法からキレート療法まで、FDAにおける代替医療に対する「戦いに終止符を打つ」と宣言した。米国ではこれまでに、幹細胞療法クリニックにおける施術を受けた結果、腫瘍化、失明、その他の傷害をもたらされた事例が発生している。なお、RFK, JrはCOVID-19のmRNAワクチンに対しては「臨床試験が十分に行われていない」と批判している。また、米国保健福祉省長官は本来、標準医療を推奨すべき立場とされている。

 RFK, Jrの発言に対してカナダのアルバータ大学で健康法・政策研究のリーダであるTimothy Caulfield教授は「代替療法に絡む詐欺師たち (grifters) の活動を(自己責任のまま)放置することは、国民の保護を完全に放棄する行為だ」「RFK, Jrの『大手製薬会社には問題があるから、私たちも悪者(bad actors)になる機会が欲しい』というに等しい論理は全く理解できない」と述べた。また、幹細胞研究の主要な専門家団体の一つである国際幹細胞研究学会(International Society for Stem Cell Research)は、RFK, Jrの発言を検証し、「このアプローチは、科学的に信じ難い謳い文句で販売されることが多く、病原体に汚染されていることさえある製品を許容する可能性がある」と非難した。
[出典]
2025-05-29 HHS (米国保健福祉省)、インフルエンザパンデミックに備えるmRNAワクチンに関するモデルナ社との約6億ドルの契約をキャンセル [Branswell H, Herper M. STAT 2025-05-28/]
[注] mRNAに依存しないワクチンはパンデミックに対して迅速に対応することが難しいのだが。

2025-05-28
  • RFK Jrは「Ultimate Human」ポッドキャストに出演し、「世界で最も影響力のある医学雑誌の3つである『New England Journal of Medicine』『Journal of the American Medical Association』『Lancet』は「腐敗」しており、製薬会社が資金提供し承認した研究を掲載している」、「米国政府機関の科学者の投稿を禁止する」と述べた [POLITICO 2025/05/27]。
  • RFK Jrは「健康な児童と妊婦にはCOVID-19ワクチン接種を推奨しない」と公式に述べた [NBC NEWS 2025-05-27]
2025-05-17 ロイターによると「米国は、子どもと妊婦への新型コロナワクチン接種の推奨を中止に向かう 」
 米国保健福祉省 (HHS) 長官は、反ワクチン団体を率いていたRFK Jrであり、FDA長官Marty Makary(外科医) は、pro-vaccineを自称しながら、COVID-19パンデミックの際に、ワクチン接種義務化には反対していた。
[出典] "HHS to stop recommending Covid shots for children, pregnant women, WSJ reports" Reuters 2025-05-16. https://www.reuters.com/business/healthcare-pharmaceuticals/hhs-stop-recommending-covid-shots-children-pregnant-women-wsj-reports-2025-05-15/

2025-05-15 米上院の保健教育年金労働委員会が、RFK Jr.のワクチンを巡るこれまでの発言を追及
  • 同委員会委員長を務めるBill Cassidy上院議員 (共和党) は「ケネディ氏が新型コロナウイルスワクチンは対プラセボ(偽薬)の臨床試験しか行われていないと述べたのは真実ではない」と指摘した。
  • 委員会委員のChristopher Murphy上院議員 (民主党) は、「はしかワクチンを支持する発言をしながら一方で、このワクチンを貶めて (undermining) きている。はしかワクチンの効果はすぐ弱まるとか、安全性のための試験が適切に行われていないとか、人工中絶された胎児の細胞が含まれているとか」と批判した。
  • これに対してケネディ氏は、そうした過去の発言を認めた上で「私は何か問題があると分かった場合、人々に全てが安全で効果があると伝えるつもりはない」と答えた。
[注] この公聴会では、FDA, CDC, およびNIHの人員削減や予算削減についても議論があった模様。
[出典] "US health chief Kennedy clashes with lawmakers over vaccine comments" Aboulenein A. Reuters 2025-05-15
https://www.reuters.com/business/healthcare-pharmaceuticals/us-health-chief-kennedy-face-lawmakers-questions-mass-firings-measles-2025-05-14/

2025-04-03 米国, 慢性疾患対策最優先が明確に?
  • トランプ政権は第1期に、2030年までに米国でHIVを根絶する計画を開始した。
  • トランプ政権は第2期になって、HIVとエイズ研究に資金を提供する数百の助成金を削減した。ただし、治療のための資金は提供すると、情報筋は述べている。
  • RFK Jrは、連邦政府が感染症よりも慢性疾患にもっと注意を向けるよう繰り返し求めてきている。
[注] 米国ではCOVID19研究予算も 「パンデミックは終結したとして」削減された [*]。ロングCOVIDはこれから続くにも関わらず、また、感染症は予防することで、結局は、人的にも経済的にも損失を抑制できるはずなのだが。
[*] "Saying ‘pandemic is over,’ NIH starts cutting COVID-19 research" Cohen J. Science. 2-25-03-25. https://doi.org/10.1126/science.zlh9w5d

[出典] "Trump team guts AIDS-eradication programme and slashes HIV research grants" Basilio H. Nature 2025-03-31. https://www.nature.com/articles/d41586-025-00969-5

2025-04-01 米国での麻疹感染拡大が続く

 2025-04-01 21.36.53イェール大学公衆衛生大学院のレポートによると、3月31日時点で、米国内の麻疹感染患者数は476名に、入院患者は42名に、達した。死者は、当初報道から変わらず、成人1名 (2015年以後初めて)、小児1名(2003年以後初めて)に留まっている [右図参照]。麻疹のアウトブレイクをもたらしているのは、ワクチン接種率が低いこと、ワクチン接種忌避と誤情報の蔓延、COVIDペンデミック以後特に高まってきた公衆衛生当局への不信感が、挙げられている。

 ところで、FDAの生物製剤評価研究センターの所長を務め、特に、FDAのワクチンプログラムを監督したPeter Marks博士は2025年3月に辞任を表明した。報道によると、"Marks’ forced resignation"とされている。また、Marks氏は公開したレターの中で「... 真実と透明性は望まれておらず、むしろ誤情報 (misinformation) と嘘 (lies) を従順に認めること (subservient confirmation) が求められていることが明らかになった」と述べている [Bonifield J, Tirrell M. CNN 2025-03-28 https://edition.cnn.com/2025/03/28/health/fda-vaccine-peter-marks-resigns/index.html] 。

2025-03-27
危惧されていたことが現実になった - 米国ではワクチン未接種麻疹入院患者にビタミンA中毒の兆候が見られ始めた

 麻疹アウトブレイクの中心地に近いLubbockのCovenant 小児病院では、麻疹患者の一部に肝機能異常が見つかった。これはビタミンを過剰に摂取した兆候である可能性が高いと、Covenant Health-Lubbock Service Areaの小児科病院医兼最高医療責任者であるLara Johnson医師は述べている。また、該当する患者はいずれもMMRワクチンを接種していなかった。

 RFK Jr米国保健福祉長官は、MMRワクチンを否定しないまでも摂取は個人の判断に任せるとした上で、「ビタミンA推し」の発言を繰り返し、FOXニュースのインタビューでは、ビタミンAが「予防薬として」機能する可能性があるとさえ示唆していた。一方、専門家は、ビタミンA欠乏症以外の小児のビタミンA摂取に警鐘を鳴らしていた [2025-03-08の項参照]。

 [crisp_bio注] 本件「集団訴訟」マターではなかろうか。そういえば、日本では、新型コロナ対策として「イソジン推し」があった。

[出典] "Some measles patients in West Texas show signs of vitamin A toxicity, doctors say, raising concerns about misinformation" Mukherjee N. CNN 2025-03-26  8:40 PM EDT. https://edition.cnn.com/2025/03/26/health/texas-measles-vitamin-a-toxicity/index.html

2025-03-25 反ワクチン団体による"CDCもどき"Webサイトと米国における麻疹感染拡大
[出典] “Shady CDC page, measles, Americans are unhappy, egg prices down, and infant formula” Jetelina K. Your Local Epidemiologist 2025-03-24. Substack.
https://yourlocalepidemiologist.substack.com/p/shady-cdc-page-measles-americans 

 スクリーンショット 2025-03-25 7.01.03
先週末 (3月22日), "CDCもどき"Webサイト(realcdc[.]orgと呼ばれる)が公開された。公式のCDCページとまったく同じブランド、フォント、スタイルで [右図参照]、MMRワクチンが自閉症を引き起こすという偽情報を、被害にあったとする親の証言のビデオとともに、提示してしていた。このサイトは、RFK Jr.長官がかつて設立した非営利の反ワクチン団体であるChildren’s Health Defense(CHD)によってホストされていた。ニューヨークタイムズの報道*によれば、RFK Jr.は迅速に削除を依頼した。 "CDCもどき"Webサイトは現在ネットから消えているが、これからも、真正なサイトを装ったフェイクサイトが現れてくるだろう。
[*] "Kennedy Instructs Anti-Vaccine Group to Remove Fake C.D.C. Page" Stolberg SG, Rosenbluth T, Mandavilli A. The New York Times. 2025-03-22.

 スクリーンショット 2025-03-25 7.01.16MMRワクチンを貶める活動が行われている一方で、麻疹症例は、3月14日 (金曜日) 時点の326件から、3月22日 (土曜日)の時点で、19州で407件へと増加した [右図参照]。そのうち355件はテキサス州、ニューメキシコ州、オクラホマ州で発生した流行に関連することが明らかになっており、他は、海外旅行によると見られている。Lubbockの公衆衛生局長は、パンハンドル地区の流行を封じ込めるのに 1 年かかる可能性があると警告した。この流行を封じ込めるのに 12 か月以上かかると、米国は 25 年間保持してきた麻疹撲滅の地位を失うことになる

2025-03-20 "mRNAワクチン"は、米国での研究助成金申請書では禁句に

スクリーンショット 2025-03-18 7.13.122025-03-18 米国における麻疹の感染状況
  • 3月14日 (金曜日) の時点で、米国では326件の麻疹患者が報告されており、これは過去15年のうち12年の年間患者数を上回っている [右図参照]。なお、麻疹患者は5年ごとに急増するが、その理由はまだよくわかっていない。
  • 米国や世界的なワクチン接種率の低下が重なれば、完璧な嵐がやってくる。昨年、ヨーロッパでは過去25年間で最高の麻疹患者数を記録した。
  • 2025-03-18 8.16.51テキサス州/ニューメキシコ州では麻疹患者が増え続けており [右図参照]、その数は報告されている数の4倍以上になると推定されている。その根拠の一つは、麻疹の死亡率は感染者1,000人に一人とされているところ、少なくとも一人の死者が出ていることにある。
  • アウトブレイクはパンハンドルからテキサス州東部、オクラホマ州、メキシコ、そしておそらくカンザス州へと広がっている。症例の大部分はワクチン未接種の学齢児童である。
  • 麻疹はこのアウトブレイク以外にも増加しており、海外旅行と関連している。この1週間で、バーモント州、ミシガン州、ニューヨーク州、ヒューストン、カリフォルニア州、ペンシルバニア州で患者が発生している。
  • 麻疹の感染力:感染者1人が感染させる人数が、インフルエンザの場合は1-2人、SARS -CoV-2の場合は、1.4-2.5人とされているのに対して、12-18人とされている。麻疹感染者が部屋を通り抜けると、呼吸から吐き出された感染力をもった微細な液滴が空中を漂い、かつ、物の表面に感染力を保ったまま2時間程度付着している。1991年には、スポーツスタジアムで、一人の麻疹感染スリートが、16人に感染させ、そのうち2人は30mの距離に座っていた。さらに、麻疹感染後の2〜4日は風邪のような症状で特徴的な発疹が出るのはその後になることから、感染初期の感染者が感染を広げがちになる。
  • 麻疹感染の影響:ワクチン非接種の児童の1,000人に1~3人に死亡するリスクがある。感染者の5-6%は肺炎を発症し、また、視覚や聴覚を失う場合がある。さらに、感染から2~3年間は他の疾患にかかりやすくなり、数年後に認知障害などを伴う亜急性硬化性全脳炎を発症するリスクがある。
 麻疹のアウトブレイクが広がるか抑え込まれるか、RFK Jr. 米国保健福祉長官の今後を占う試金石となる。

2025-03-15 Nature誌が"Will RFK Jr’s vaccine agenda make America contagious again?" と題するニュース記事を出した [Ledford H. Nature 2025-03-13]。Make America Great Again (MAGA)とMake America Healty Again (MAHA) ならぬMAHA (Make Amecia Contagious Again)というわけだ。
 麻疹は2000年に米国から撲滅されたと宣言されたが、ワクチン未接種の旅行者が海外からウイルスを持ち込むと、散発的な流行が繰り返されてきた。今年の流行は致命的で、2月にテキサス州でワクチン未接種の健康な6歳児が、この10年間で初めて麻疹で死亡した。ニューメキシコ州でも麻疹による死亡者が出た可能性があり、当局が調査中である。
 一方で、欧州・中央アジアでは2024年に麻疹感染が急増し、過去最多の12万7,350件に達したと、ユニセフとWHOが集団予防接種などの緊急の対処をするように呼びかけている [ユニセフ 2025-03-13]。したがって、米国から欧州・中央アジアへ出かけたワクチン未接種の人々が帰国後麻疹を広げるリスクが高まっていることになる。
 Nature NEWSは、ワクチン接種を強力に促進すべき立場のRFK Jrが、ワクチン接種を一応薦めながらも、麻疹対策として、ビタミンAを推奨し肝油を賞賛するメッセージを発していることの悪影響を危惧している。また、米国のWHOからの2026年脱退表明や、USAIDの弱体化に伴う低・中所得国でのワクチン接種が滞っている事態についても危惧している。

2025-03-08 ブログ記事タイトルを「米国保健福祉長官に指名されたRFK Jr. の信念 - 委員会で豹変 -上院で承認」から「RFK Jr. の米国保健福祉長官の信念」に改訂し、米国でのはしか(麻疹)流行に関する状況を更新

 米国CDCは、「2025年3月7日現在、テキサス州で198件、ニューメキシコ州で10件の確定症例が報告され、テキサス州で1人、ニューメキシコ州で1人の計2人の死亡が報告されている。このアウトブレイクが拡大し続けているため、さらに症例が増えることが予想される」と発表した。両州の他にも、 アラスカ州、カリフォルニア州、フロリダ州、ジョージア州、ケンタッキー州、ニュージャージー州、ニューヨーク市、ペンシルバニア州、ロードアイランド州、ワシントン州でも症例が確認され、全米で222例に達している。222例のほとんどはMMRワクチンを接種していない子供たちである。

 こうした麻疹流行の中、RFK Jr. HHS長官は、「ワクチンは個々の子どもをはしかから守るだけでなく、集団免疫にも貢献する」と述べた一方で、ビタミンAによる治療、ステロイド剤ブデソニド、抗生物質クラリスロマイシン、タラ肝油の「効果」を紹介している。ビタミンAについてはすでにそれで麻疹を予防できるといった誤情報が拡散しつつある。ビタミンAが有用なのは、低所得国に多い特定の欠乏症を持つ麻疹感染患者であり、しかも、特定の量が推奨されており、ビタミンAの過剰摂取は危険でさえある。

 RFK Jr. HHS長官は、ワクチン接種については今回「個人が決めるべきだ」とし、また、ワクチン全般に対して「これまで安全性の確認が不十分で、見直しする必要がある」とし、一方で、根拠の無い非標準予防・治療法を「紹介」し続けている。すなわち、一片の真実を混ぜながら、誤情報を拡散している。麻疹流行の中で、HHS長官は「ワクチン接種」を強力に推奨すべき立場にありながら。

[出典] 
2025-03-05 米テキサス州のはしか感染・発症は、現地時間4日の時点で159例にまで増加し、CDCがEpidemic Intelligence Servicesの専門家を派遣した。入院患者22名のほとんどが、ワクチン未接種のナノメイトが多数暮らしている郡で発生していた。かつて反ワクチン運動を続けていたRFK Jr. HHS長官は2日にFoxのWebサイトで「ワクチン接種は個人が決めることだ」とした上で、「ワクチンは個々の子どもをはしかから守るだけでなく、集団免疫にも貢献する」と指摘した [CNN.CO.JP 2025-03-05 11:26 JST]。
2025-02-28
RFK Jr 保健福祉省長官は、26日(水曜日)のホワイトハウスでの閣議の後の記者との質疑応答ではテキサス州での子供一人の死亡を伴うはしかの発生は"not unusual"とやり過ごしたが、28日 (金曜日) になって、「はしかのアウトブレイクを終息させるのが最優先事項である」と宣言し、ワクチン接種の支援 (2,000回分供与) など、感染拡大防止のために同省が講じた措置を列挙したなお、これまでにテキサス州西部とニューメキシコ州で少なくとも155人がはしかに感染したとされている。
[crisp_bio注: 誰がどのように納得させたのか興味深い]
[出典] US Health Secretary Kennedy calls for end to deadly Texas measles outbreak” Reuters. 2025-03-01. 9:09 AM GMT+9. https://www.reuters.com/business/healthcare-pharmaceuticals/us-cdc-says-vaccination-remains-best-defense-against-measles-after-death-texas-2025-02-28/
2025-02-27 一人の子供が死んだ。はしか (麻疹) で。米国(テキサス州西部)で。この10年間死亡例は無かったのに。
 これには人為的原因がある。テキサス州西部には、MMR(麻疹・ムンプス・風疹混合)ワクチン接種率が驚くほど低い地域がある。今回の流行が始まった地域では、5人に1人の子供がワクチン未接種で、接種率は~80%にとどまっていた(学校での感染の広がりを予防するには接種率99%が望まれている;テキサス州 [*] 全体での平均接種率も94.3%と、全国平均を下回っている)。はしかは、無防備な地域社会で野火のように広がる。平均して、1人の感染者が12~18人のワクチン未接種の人々に感染させる。2019年の大流行では感染者が1,000人を超えた。
[*] テキサス州知事は、1995年からジョージ・W・ブッシュ、リック・ベリー、グレッグ・アボットと共和党が続いている。ルイジアナ州知事も2024年1月から共和党のジェフ・ランドリー。

 麻疹は単なる発疹ではない。多くの子どもたちが麻疹感染から回復するが、麻疹は難聴や脳障害の原因にもなり、インフルエンザなど他のウイルス感染症に対する免疫記憶の大部分を消し去り、数年後に全死因死亡の増加につながる。また、テキサス州西部のように、肺炎に至り、死亡する場合もある。

 RFK Jr長官は「麻疹の流行は毎年のことだ。何も異常なことはない ("not unusual")」と述べた (X投稿ビデオの終了直前の発言) しかしファクトは、2025年はまだ2ヶ月が過ぎようとしている時点で、2020-2023年の各年の年間感染者数を超え、2024年の年間感染者数のほぼ半数に達している。また、RFK Jrは、入院患者は隔離のために入院したと述べたが、ファクトは、呼吸困難のため入院している。さらに、麻疹から肺炎を経て亡くなる可能性はあるが、ワクチン接種をしていれば防げたいたはずの死は、普通のことではない(NOT "not unusual")。ソーシャルメディでは、「この集団感染はワクチンが原因だ」というフェイク情報が流れているが、RFK Jr長官は、MMRワクチン接種を推奨することはなかった。

[crisp_bio注:米国では、2025年に入って、鳥インフルエンザウイルス感染者の死亡例も報告されている [NHK 2025-01-07]。

[出典] "A child is dead from measles" Jetelia K. Your Local Epidemiologist. 2025-02-27. https://yourlocalepidemiologist.substack.com/p/a-child-is-dead-from-measles
[
crisp_bio注] ロイター, CNN, ABC News, NBC News, AP News, USA Today, そしてFOX Newsも、テキサスでの死亡例を「ワクチン未接種の児童1名がはしかで死亡」と報道したが、CDCのWebサイトにはまだ報告されていない。

2025-02-18 ルイジアナ州保健省は、ワクチン接種のイベントを禁止し、予防接種を推進しないよう職員に命じた。RFK Jr.がHHS長官に承認されたのと同じ日のことである ["Flu breaking records, measles, tuna recall, and federal workers fired" Jetelina K. Your Local Epidemiologist. 2025-02-17. https://yourlocalepidemiologist.substack.com/p/flu-breaking-records-measles-tuna]

2025-02-14
「RFK  Jr. の米国保健福祉長官就任、上院で承認」と一斉に報道された [*1]

 投票結果は賛成52対反対48と、ほぼ共和党と民主党の議員数に沿ったものだったが、共和党のミッチ・マコネル上院議員(ケンタッキー州)は、この指名に反対した。RFK Jr.はポリオワクチンは自閉症をもたらすとしてポリオワクチンにも反対していたが、マコーネル上院議員は、ポリオの生存者である。委員会で批判的であったルイジアナ州選出のキャシディー共和党議員は、上院での投票前に「ホワイトハウスと 『緊迫した会話 (intense conversation)』した。『本音の助言 (honest counsel) 』をくれたバンスに感謝した」と述べた。
[*] crisp_bio注:本項はCNNニュース (Foran C, Rimmer M, Barrett T.  2025-02-13 12:35 PM EST)に準拠

2025-02-05


 RFK Jr.は、4日に上院委員会で承認され、米国保健福祉長官として承認されるために必要な最初のハードルを超えたと一斉に報道された [CBSNBCBBCなど]。上院財政委員会は、14対13で指名を支持し、承認は、共和党が53対47で制している上院本会議での投票に移る。

 委員会の共和党議員の大半は指名を進めることを支持すると予想されていたが、ルイジアナ州選出の共和党議員で医学博士のWilliam Morgan Cassidy上院議員は、公聴会の際、大統領が保健福祉省長官に指名したことに懸念を表明した。

[ "Senate committee advances RFK Jr. nomination to full Senate to be health secretary" 投票に際しての何人かの委員の指名賛成と指名反対のステートメント付き YouTube WFAAチャネル]

2025-02-04 

 RFK Jr.は公聴会2日目に「COVID-19ワクチンが数百万人の命を救ったとは誰も言えないと思う (“I don’t think anybody can say” COVID-19 vaccines saved millions of lives.)」と述べ、また、「データに基づいて判断する」と繰り返した。
[出典] "Key senator grills Kennedy on vaccines in second day of hearings" Wadman M. Science 2025-01-30. 3:00 PM ET. 

2025-01-30 9:47 am

 RFK Jr. は、公聴会前に報道されていたように、冒頭で"News reports have claimed that I am anti-vaccine or anti-industry. I am neither. I am pro-safety."と表明した。
[出典] PBS NEWS "RFK Jr. faces questions over vaccine skepticism, Medicaid reform at confirmation hearing" 2025-01-29 6:50 PM EST https://www.pbs.org/newshour/show/rfk-jr-faces-questions-over-vaccine-skepticism-medicaid-reform-at-confirmation-hearing

 この水曜日の公聴会は上院財務委員会で行われた。RFK Jr.は木曜日に保健・教育・労働・年金委員会で2回目の承認公聴会に臨む。

2025-01-30 4:05 am


 リアルタイムで進行中の米上院公聴会でバーニー・サンダース上院議員は、RFK Jr.が設立したChildren's Health Defenseが販売している「UNVAXXED, UNAFRAID」と「NO VAX, NO PROBLEM」とプリントされているベビー服 (baby onesies)を公開し、「(この場でワクチン推進派 (pro-vaccine)と主張した貴方は)この販売を止めないのか」と問うた。RFK Jr.は「団体から辞したので、団体に対する影響力は無い」と答えた [以下の動画はバーニー・サンダースのX投稿から引用; 7,000を超すリプライのごく一部をスキャンしただけだが、反サンダースからのリプライが目立った]。
2025-01-29

 RFK Jr. は上院の公聴会を目前にして「僕は、アンチ・ワクチン派でもアンチ・製薬産業でもありません」「僕の子供たちは全員予防接種を受けているし、ワクチンは医療において重要な役割を担っていると信じています」と述べているようだ。
[注] 本投稿の初稿に記したように、RFK Jr.はアンチ・ワクチン派として知られ、代表を務めていたアンチ・ワクチン団体Children's Health Defenseは、COVIDパンデミックの間に、アンチ・ワクチン団体の中で一際抜きん出た資金を獲得していた。

 RFK Jr.のいとこで、元駐日大使のキャロライン・ケネディは、28日 (火曜日) にインスタグラムに投稿した手紙とビデオの中で、上院議員たちに彼の指名を拒否するよう求めていた:「彼には、政府、財務、経営、医学に関するいかなる経験もない。ワクチンに関する彼の見解は危険で、故意に誤った情報を与えている。これらの事実だけでも失格である」「(私は) 彼の弟やいとこたちが 薬物に溺れていく (addict) のを見てきたが、今は、ボビーが注目を集める事と権力に溺れていくのを見ている」。また、駐オーストラリア大使時代にRFK Jr.も関与していた「アンチ・子宮頸がんワクチン」キャンペーンのために「亡くならなくて済むはずであった女性が多数亡くなった」ことを学んだことにも言及している。 [以下の動画はX投稿から引用]  さらに続けて「自分自身のつらい家族の悲劇 [*]を宣伝のために利用することを厭わないような人物が、アメリカの生死にかかわるような状況を任されるとは、私には理解できない」と述べた。[*] 1968年に当時の大統領選挙のキャンペーン中の父ロバート・F・ケネディーが暗殺された。
 
 なお、RFK Jr.の信念はこれから「pro-safety」と表現されることになるようだ。「pro-safety」が、乳牛への鳥インフルエンザウイルスの感染さらにはウシからヒトへの感染が報告 [Science, 2024]されている中で「生乳」を推奨するような「自然万能」を意味しなければ良いが。

[出典] "RFK Jr. Says He’s Not Anti-Vaccine Ahead of Senate Hearings" Mufarech A, Madison Muller M. Bloomberg. Updated 2025-01-29 4:19 JST. 

2025-01-28. 初稿
[注] 保健福祉長官(Health and Human Secretary: HHS) への就任は、公聴会を経た議会での承認待ち
[出典]
  1. "Here's what we're getting ourselves into" Panthagani K. Your Local Epidemiologist (YLE)Substack (ブログ) 2025-01-25. https://yourlocalepidemiologist.substack.com/p/heres-what-were-getting-ourselves
  2. "RFK Jr. invested in gene-editing biotech, is owed millions for book advances, disclosures show" Owermohle S, Cueto I, Zhang RC. STAT 2025-01-22. https://www.statnews.com/2025/01/22/trump-hhs-secretary-pick-rfk-jr-financial-disclosures-biotech-investments-book-advances/;"RFK Jr.’s anti-vaccine group lost $3 million last year" Zadrony B. NBC News 2024-11-14. https://www.nbcnews.com/news/us-news/rfk-jr-childrens-health-defense-tax-revenue-loss-rcna179934
[1] RFK Jr (Robert F. Kennedy Jr. ) がHHSになることがもたらすこと

 ある調査結果によると、米国民の40%近くがRFK Jr.のHHS指名を支持している。何故か?主な理由が3つ考えられる:
  1. 多くの人が過去の”とんでも"発言知らない: 多くの人は彼の過去の立場やより極端な考え (fringe belief)を知らない。
  2. 多くの人の心に刺さる発言をしている: 多くのアメリカ人が関心を寄せている増加する慢性疾患への対策、食品業界の批判、医療機関への不満、を掬い上げている
  3. "自然万歳 [*]"という強力なレトリックを(意識的または無意識に)使っている: RFK Jr.のメッセージの多くは、健康産業のマーケティング業界が人々に刷り込んだ非常に魅力的な (highly appealing) 語り口にパッケージされている、すなわち、"自然は全て善、人工物は全て悪" [* 意訳:Appeal to nature / Naturalistic fallacy]
 RFK Jr.の健康思想の多くは、「自然の脅威(細菌を含む)を軽視し、人工物(人間が作り出したもの)こそが真の問題である」ことがコアになっているようだ。最近の著書の中で、彼はパスツールやコッホなどの先人によって確立された「病原体理論」、つまり病原体が病気を引き起こすという考え方が、19世紀に信じられていた「悪い空気によって病気は引き起こされる」という「瘴気理論」よりも優勢になっていることを、嘆いている。このように考えると、RFK Jr.のさまざまな、一見バラバラに見える考え方は、あるパターンに当てはまり始める:

自然・善(あるいは大した問題ではない):
  • 感染性微生物の研究を8年間止めようとしている(これらの自然に発生する細菌は差し迫った脅威ではないと見ているようだ)。
  • 生乳の推進(低温殺菌牛乳よりも 「自然 」であるから)
  • HIV(自然界に存在するウイルス)がエイズの真の原因ではなく、むしろ薬物使用が原因であることを示唆
人工物・悪
  • 医薬品開発を8年間止めたいと考えている(医薬品は人工物であるから)。
  • Wi-Fi(人工物)が、がんを引き起こすと主張。
  • 抗うつ薬(人工物)が大量射殺を促進すると主張
  • HIVの抗ウイルス剤が人を殺したという主張
  • 水中のフッ素が悪いという主張(フッ素は天然に存在するミネラルであるにもかかわらず、多くの人が「不自然」と誤ってみなす「化学物質」の烙印を押されている)
  • ワクチン(人工物)は安全ではないという主張
「自然・善と人工物・悪」の信念から外れた発言もある
  • COVID-19治療薬として人工物のイベルメクチンとヒドロキシクロロキンを推した。
  • 一方で、ソーダのような砂糖入りの超加工飲料は健康に良くないと"真っ当な"意見を述べた。
[crisp_bio注] RFK Jr.は、環境派弁護士としてDuPontやニューヨーク市などの大企業や自治体と公害訴訟を争った経歴があるが [Wikipeida]、それが、自然・善-人工物・悪の信念に基づいていたのか、むしろ、それがその信念を醸成したのか、興味深い。

 米国議会が開く公聴会において、RFK Jr.の1.8兆ドル規模の機関を運営する資格と、広範囲に及ぶ公衆衛生政策が検証される中で、"自然万歳"の信念が最も注目に値する。健康産業のマーケティングがこの考えを米国民の間で極めてポピュラーなものにしているが、公衆衛生政策としては、過度に単純化され国民の健康を害する可能性がある。

 感染症は自然なものであり、人々を死に至らしめる。多くの抗生物質は、自然を手がかりにして「人間が作った」ものであるが、無数の命を救っている。タバコ(Nicotiana tabacum)は自然なものだが、ヒトにとって良いものではない。そして、「人間が作った」ものを排除することは、ガン治療の新薬のように、純粋に人々を助ける技術の進歩を止めることを意味する。

 アメリカにおける慢性疾患の増加は、対処すべき重大な健康危機である。しかし、アメリカの健康に真に役立つ変化を起こすためには、問題を実際に引き起こしている要因が何であるかを正しく認識することが重要である。"自然・善/人工物・悪"の信念を持っているRFK Jr.は、一部認識が「真っ当」であったとしても、アメリカの健康問題の根本原因を一貫して判断することができるだろうか。もし、科学的判断がなされなかった場合は:

1. バイオセキュリティの脅威
 RFK Jr.はすでに、鳥インフルエンザ用に開発中のワクチンに疑問を投げかけている。自然に発生する感染症の脅威を認識しない保健政策は、自国をバイオセキュリティの脅威にさらすことになり、新たなアウトブレイクを特定し対応する技術的能力を制限することになる。

2. 税金の浪費
 研究資金は、根本的な原因や解決策が 「自然なもの 」であろうとなかろうと、あるいはヒトが作り出した技術や薬剤の開発であろうとなかろうと、データの裏付けがある最も有望な仮説に使われるべきである。もし何百万ドルものNIH研究費が間違った仮説に投入されれば、大した進展もないまま莫大な費用が浪費されることになる。

3. 頭脳の流出
 RFK Jr.がもし本当に、感染症研究や医薬品開発への資金援助をやめると決めたら、米国はこの種の研究を行い、他の人々を訓練する知識と能力を持った科学者を失い始めるだろう。

4. 医療費の増加
 RFK Jr.はワクチンを取り上げるつもりはないと主張しているが、小児ワクチン接種を弱体化させようとする努力(規制の変更や不信感の植え付けなど)は、医療費を大幅に増加させるだろう。小児ワクチンは、病気や入院はもちろん、学校や仕事の欠席を防ぐことによって、過去30年間で直接費用だけで推定5400億ドルを節約してきた。

5. 米国民の健康が損なわれる
 米国における健康問題を正しく判断できないことの最大の代償は、結局、根本的な原因に十分に対処できず、米国民の健康を守るさらには向上させる策を見つけられないことである。

 RFK Jrはこれまで、科学的エビデンスが明確に示されているときでさえ、自説に固執するという実績がある。例えば、ワクチンが自閉症を引き起こすと、30年来言い続けている [そのきっかけとなった論文は, その後の数々の試験データをベースに撤回された e.g. フィラデルフィア小児病院のパンフレット]。それよりもさらに問題なのは、「自分が同意しない撤回を決定した学術誌の編集者に対して、司法長官が訴訟を起こすべきだ」という提案だ。政府が法的な脅し(legal intimidation)によって学術雑誌の出版に口を出すことは、科学的正確性、効果的な医療政策、言論の自由、全てを損なうことになる。

[2] HHS就任に向けた反ワクチン活動家としてのRFK Jrの準備

 RFK Jrが、遺伝子編集技術に投資し、いくつかの書籍執筆について多額の前払いを受けていることが、開示された。同時に、HHSの職務との利益相反を回避するために、バイオテクノロジー企業CRISPR Therapeutics AGとDragonfly Therapeuticsの株を含む保有株を売却する予定であり、また、法律事務所と反ワクチン非営利団体Children's Health Defense(以下、CHD)の役職からも退く予定であると、されている


 CHDは、COVID-19パンデミックが反ワクチンの団体や活動家の知名度を上げ、その懐を潤した中で、最もそれを享受した団体である。CHDの収入は、2020年にそれまでの2倍の680万ドルに達し、2021年には1600万ドル、2022年には2350万ドルと再び増加した。しかし、昨年は寄付金の減少により、約300万ドルという団体史上初の大幅な赤字となった。これは、米国代大統領選に参戦するためにRFK JrのCHD代表 (Chairman) から外れることが表明された時期と重なっている。
このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント

コメントフォーム
評価する
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット