[出典] "Prevalent integration of genomic repetitive and regulatory elements and donor sequences at CRISPR-Cas9-induced breaks" Bi C, Yuan B [..] Li M. Commun Biol. 2025-01-20. https://doi.org/10.1038/s42003-025-07539-5 [所属] Bioscience Program, Biological and Environmental Science and Engineering Division (KAUST, Saudi Arabia), KAUST Center of Excellence for Smart Health (KCSH)
[背景]
CRISPR-Cas9システムの臨床応用が進むにつれ、長期的なリスクをもたらす潜在的な遺伝毒性副作用を理解する必要性が高まっている。これまでの研究で、CRISPR-Cas9編集は、gRNAのミスマッチに起因するオフターゲット変異誘発を引き起こす可能性があることが知られていたが、近年、オンターゲットにおいても望ましくない結果をもたらすことも明らかになってきている。マウスやヒトの幹細胞や生殖細胞Cas9を用いたゲノム編集は、非ランダムで大規模かつ複雑な構造変異体(SV)[* 1, 2, 3]、一塩基変異体(SNV)の増加 [* 3]、ヘテロ接合性の頻繁な消失 [* 4] などが報告されている。
しかし、Cas9による突然変異誘発に関する発表された研究のほとんどは、ドナーテンプレートなしで行われている。AAVおよびプラスミド駆動型Cas9編集では、外因性ベクターの統合が報告されているが [* 2, 5, 6]、Cas9が介在するゲノム編集の結果に対するさまざまな種類のドナー配列の影響、およびCas9が誘導する意図しない大規模な挿入(large insertions: LgIns)の状況は、依然として不明である。
KAUSTの研究チームは以前、ドナーテンプレートなしでCas9を介したオンターゲット突然変異誘発の高感度、定量的、ハプロタイプ分解解析を可能にするロングリードシーケンス技術、IDMseqを開発した [*3] 。オリジナルのターゲットDNAに付加されたユニークな分子識別子(unique molecular identifiers: UMIs)を利用することにより、IDMseqは、Cas9で編集された細胞から何万もの個々の対立遺伝子を解析し、0.004%という低頻度な多様なタイプのバリアントを検知可能とする [* 3, 7]。デュアルUMIを用いたPacBio SMRT-seqを用いた以前の研究 [* 8]、Cas9編集領域における相同配列および反復ゲノム配列のオンターゲット統合が示された。しかし、捕捉された分子数が、サンプルあたり数百の対立遺伝子と少数であったことから、デュアルUMIアンプリコンシーケンスでは正確な対立遺伝子頻度を測定ぜきず、LgInsの偏りのない定量的な解析には至らなかった。
[研究内容]
KAUSTの研究チームは今回、Cas9によって誘導される意図しないLgInsと、ドナーテンプレート指向Cas9ゲノム編集におけるドナーの種類の影響を正しく定量的に理解するために、異なる種類のドナーDNAを用いた場合と用いなかった場合の両方で、Cas9編集後のヒト胚性幹細胞(hESC)について、オックスフォード・ナノポア・テクノロジーズ(ONT)シーケンサーを用いてIDMseqを実施し、オンターゲット部位での望ましくない統合の状況を詳らかにした:
- 統合される配列の観点からは、レトロトランスポーザブル・エレメント(RE)と宿主ゲノムのコード配列およびノンコーディングの制御配列が優勢であった。
- REの頻度と3次元ゲノムの構造解析から、LgInsはDNA修復機構によってランダムに獲得されたゲノム断片に由来することが示唆された。
- ドナーテンプレートDNAが存在する場合は、意図しない全長および連結した二本鎖DNA(dsDNA)ドナーの統合が顕著に起こった。
- さらに、リン酸化されたdsDNAドナーは、相同性指向性修復(HDR)の効率を損なうことなく、LgInsや大規模欠失を常に半分にまで減少させた。
[*]
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- 2022-11-18 CRISPR-Cas9 RNPによるゲノムの大規模な欠失と挿入が新手法でも確認された;"Long-read Individual-molecule Sequencing Reveals CRISPR-induced Genetic Heterogeneity in Human ESCs" Bi C, Wang L [..] Huang Y, Li M. Genome Biol 2020-08-24.
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