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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

[出典] "Multi-gene precision editing tool using CRISPR-Cas12a/Cpf1 system in Ogataea polymorpha " Hou S, Yang S, Bai W. Microb Cell Fact. 2025-01-21. https://doi.org/10.1186/s12934-025-02654-8 [所属] Tianjin Institute of Industrial Biotechnology (National Center of Technology Innovation for Synthetic Biology CAS, Key Laboratory of Engineering Biology for Low-Carbon Manufacturing CAS), U CAS

 Ogataea polymorpha は、いわゆるNon-conventional Yeast(NCY: Saccharomycesでない酵母)に属し、異種タンパク質の発現や、高価値の化学物質やバイオ医薬品の生産に大きな可能性を示している。しかし、正確で効率的なゲノム編集ツールが欠如していたことから、細胞ファクトリーとしての実用化が遅れていた。これまでにCRISPR-Cas9による遺伝子編集が実現されていたが [J Biosci Bioeng., 2017]、遺伝子編集効率、特に細胞ファクトリー開発に必須な複数遺伝子の編集効率を、大きく改善する必要がある。

 中国の研究チームが今回、crRNAとCpf1プロモーターの両方をスクリーニングし、単一遺伝子(98.1±1.7%)、二重鎖遺伝子(93.9±2.4%)、三重鎖遺伝子(94.0±6.0%)に対して高い編集効率を示すCRISPR-Cpf1を介したO. polymorpha の効率的ゲノム編集システムを開発した [論文 Fig. 1 参照]。さらに、非相同末端接合(NHEJ)関連遺伝子KU70 をノックアウトすることで、相同組換え(HR)効率は30%未満から90~100%に向上し、精密なゲノム編集能力を著しく高めた。HR率の向上により、三重鎖遺伝子の90%以上の組込み効率と、20kbまでの大きなDNA断片の90%以上の欠失率が可能になった。さらに、開発したCRISPR-Cpf1システムを用いると、三重遺伝子をワンステップで正確にゲノムに組み込むことができ、 のリコピン生産が可能になった。

 CRISPR-Cpf1を用いたこの新規なゲノム多重編集ツールは、複数の遺伝子の欠失と統合を実現することが可能であり、このNCYの代謝工学的およびゲノム進化工学的研究を加速し、産業用細胞ファクトリーとしての応用を広げていくことが期待される。
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