2025-04-14 通常の臨床試験に先立つ"compassionate use"の枠組みで移植されたUnited Therapeutics社の遺伝子操作ブタ腎臓UKidney™が130日間機能したと、報道された。
[出典] "Transplanted pig kidney removed after functioning in living patient for more than four months" McPhillips D, Christensen J, Kounang N. CNN 2025-04-11. https://edition.cnn.com/2025/04/11/health/pig-kidney-transplant-removed-longest-in-living-patient/index.html
[出典] "Transplanted pig kidney removed after functioning in living patient for more than four months" McPhillips D, Christensen J, Kounang N. CNN 2025-04-11. https://edition.cnn.com/2025/04/11/health/pig-kidney-transplant-removed-longest-in-living-patient/index.html
- アラバマ州出身のTowana Looneyは、FDAの"compassionate use"の枠組みで、2024年11月25日下旬にUKidney™移植を受け [*]、11日後に退院していた。Looneyは、1990年に母親に腎臓を提供した後、残る腎臓も不全に陥り、臓器移植の長い待機リストに載りながらここ9年間透析を受けていたところ、透析に伴う深刻な障害が発生していたことから異種臓器移植を医師とともに決断した。
- その後2025年4月に入って、急性拒絶反応により腎機能が低下し、免疫抑制剤の追加投与と、UKidney™の摘出の選択肢を検討した結果、後者を選択し、現在は、自宅に戻り、透析を再開している。
- ニューヨーク大学ランゴーン移植研究所のRobert Montgomery所長は声明の中で、「長期間安定していた後に拒絶反応が発現した原因は調査中だが、感染症の治療のため、免疫抑制療法の量を減らした後に発症しました」と述べている。
[注] 臓器移植では、移植臓器に対する拒絶反応回避と感染症のコントロールとのバランスを取るのが大きな課題の一つとされている。
- 末期腎臓病患者6名へ移植し, 安全性を検証, 成功すれば50人規模の治験へと展開
[注] 遺伝子編集ブタからヒトへの臓器移植の例はこれまでに6例あるが、米国での5例はいずれもFDAの「Expanded Access Protocol (EAP) 」あるいは「Compassionate use」の枠組み*で行われたものであり、異種臓器移植が通常の臨床試験の枠組みで行われるのは今回が初めて。
[*] 生命を脅かす重篤な疾患や病態を有する患者1人またはそのグループに対し、同等の治療選択肢や治療法が存在しない場合に、実験的な治療や試験を受けることを認める枠組み。
ユナイテッド・セラピューティクス(United Therapeutics)が2025年後半に開始する予定の治験は、55歳から70歳の末期腎臓病患者で、医学的な理由で従来の腎臓移植が受けられないか、あるいは今後5年以内に移植を受けられる見込みがなく、待機中に死亡する可能性のある患者が含まれる。この試験では、何人の参加者が、そして移植された腎臓が、どれだけの期間、この手術を生き延びたか(重篤な有害事象、感染症、腎臓障害の徴候がないか)を追跡することによって、安全性と有効性を評価する。また、腎臓がどの程度血液をろ過するかを測定し、参加者の生活の質の変化も追跡する。被験者は約6ヵ月間注意深くモニターされ、その後一生フォローアップされる。
ユナイテッド・セラピューティクスのライバル企業であるイージェネシス (eGenesis) 社も、異種移植試験を開始する要請書をFDAに提出している。ユナイテッド・セラピューティクスは10個の遺伝子編集を施したブタ (10GEブタ; 商品名 UKidney) **を使用するのに対して、イージェネシスは69個の遺伝子編集を施したブタを使用する。
[**] 2つのヒト補体阻害遺伝子(hDAF、hCD46)、2つのヒト抗凝固遺伝子(hTBM、hEPCR)、および2つの免疫調節遺伝子(hCD47、hHO1)の標的挿入、ならびに3つのブタ炭水化物抗原およびブタ成長ホルモン受容体遺伝子のノックアウトを含む10の遺伝子改変が加えられている。
また、イージェネシスは移植後の臓器の成長を防ぐためにミニチュア・ブタを使用し、ユナイテッド・セラピューティクスは移植後の臓器の成長を防ぐためにブタの遺伝子を不活性化する。イージェネシス社は、「FDAの承認を得て"compassionate use"の枠組みで3例のブタ腎臓移植を行なった」と昨年12月に電子メールで発表したが、通常の治験の申請状況についてはコメントしていない。
[**] 2つのヒト補体阻害遺伝子(hDAF、hCD46)、2つのヒト抗凝固遺伝子(hTBM、hEPCR)、および2つの免疫調節遺伝子(hCD47、hHO1)の標的挿入、ならびに3つのブタ炭水化物抗原およびブタ成長ホルモン受容体遺伝子のノックアウトを含む10の遺伝子改変が加えられている。
また、イージェネシスは移植後の臓器の成長を防ぐためにミニチュア・ブタを使用し、ユナイテッド・セラピューティクスは移植後の臓器の成長を防ぐためにブタの遺伝子を不活性化する。イージェネシス社は、「FDAの承認を得て"compassionate use"の枠組みで3例のブタ腎臓移植を行なった」と昨年12月に電子メールで発表したが、通常の治験の申請状況についてはコメントしていない。
FDAは、不測の事態が起きるリスクを低減するために、各患者の試験の間に休止期間を設けることを義務付けている。治験を最大50人に拡大するか否かは、安全性と有効性のデータを検討するモニタリング委員会の判断に依る。これまで米国でブタの臓器移植を受けた5人の生存日数は71日が最長であった。この治験では、この異種臓器移植が長期にわたって有効かつ安全かが問われる。
[出典]
- PRESS RELEASE "United Therapeutics Corporation Announces FDA Clearance of its Investigational New Drug Application for the UKidney Xenotransplantation Clinical Trial" United Therapeutics 2025-02-03.
- NEWS "The science behind the first pig-organ transplant trial in humans" Mallapaty S, Max Kozlov M. Nature 2025-02-04.
[参考] ユナイテッド・セラピューティクスの研究チームなどによる関連レビュー
Review "Physiological Basis for Xenotransplantation from Genetically-Modified Pigs to Humans: A Review" Peterson L, Yacoub MH, Ayares D, Yamada K, Eisenson D, Griffith BP, Mohiuddin MM, Eyestone W, Venter JC, Smolenski RT, Rothblatt M. Physiol Rev 2024-03-22/07-01. https://doi.org/10.1152/physrev.00041.2023;グラフィカルアブストラクト引用右図参照 [著者所属] United Therapeutics Corporation, Imperial College London, Johns Hopkins Medicine, U Maryland Medical Center, J. Craig Venter Institute, Gdańsk Medical U (Poland)
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