[出典] Technology feature "Taking control with RNA" Marx V. Nat Methods. 2025-02-04. https://doi.org/10.1038/s41592-025-02596-4
[RNA治療薬関連crisp_bio記事]
- 2018-08-11 FDA、初のRNAi治療薬承認
- 2020-02-06 CRISPRゲノム編集は脇によってください、RNA編集が通ります
- 2020-12-20 [解説] mRNA分子、ワクチンから治療薬への展開
- 2022-08-05 [レビュー] RNA療法の概要と展望
- 2022-11-23 [レビュー] RNA治療薬の送達システム
- 2024-02-21 [ニュース] RNA編集が勢いを増している, CRISPRゲノム編集は席を詰めてもらえます?
- 2025-02-14 網膜変性症を, dCas13bとADARを介したRNA塩基編集により, 治療する
スタンフォード大学の遺伝学者でRNA生物学者であるJin Billy Liは、15年近く前に研究室を立ち上げて以来、RNA編集と呼ばれる後生動物細胞の内因性プロセスを、ヒト細胞内のRNAを標的として操作するために利用する方法とともに探求してきた。他の研究者たちも、RNA編集の役割と、そのプロセスがDNAの変化を伴わない方法でどのようにタンパク質を再コード化し、多様化させることができるかを学ぶために、この研究に取り組んでいる。
2024年のアメリカ人類遺伝学会年次総会で、RNA編集に関するセッションが行われたとき、会場にはほとんど空席がなかった。発表者の一人であるLiは、この分野への関心が高まっていることを喜んでいる。「率直に言って、関心のレベルは現状よりもずっと高くなるべきだと思います」と彼は言う。この分野はまだ急成長中であり、「私たちは極めて初期の段階にいる」。
UCLAのRNA・計算生物学者Xinshu Grace Xiaは、このセッションの共同主催者であるが、RNA編集はDNAベースの編集とは異なり、一過性であるため、恒久的なオフターゲット効果のリスクが低いことが現在の関心の一因であると言う。このような変化は、計画されていた以外の観点からもたらされた。
企業や学術研究所が、希少な遺伝性疾患や神経変性疾患のような複雑な疾患に対するRNA編集アプローチを模索しているため、治療薬の開発は急速に進んでいる。応用研究においても基礎研究においても、この分野での大きな課題は、RNA編集部位をいかにして特定するかにあるとXiaは言う。
[RNAの役割]
RNAが世界的に(再び)脚光を浴びたのは、世界的大流行を引き起こしたSARS-CoV-2ウイルスに対するワクチンに修飾RNAが使用されたときである。それとは別に、RNAは遺伝子編集技術CRISPRのガイドRNAとして利用されている。しかし、COVID-19やCRISPRよりもずっと以前から、RNAはゲノムとタンパク質の仲介役として、またさまざまな生物で多くの遺伝子制御の役割を果たしていることから、研究者の興味をそそる存在であった。RNAは細胞内を移動し、一本鎖が折り重なることで様々な立体構造を持つことができる。
米国科学・工学・医学アカデミー (US National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine: MASEM)による評価によれば、各遺伝子は数十、場合によっては数千のRNA分子を生み出し、「重要なことは、これらのRNA分子もまた、その配列を化学的に変化させる、あるいは改変する生物学的プロセスの影響を受ける」ということである。生物の各細胞は、修飾されたRNA分子の明確な集合を持っており、このエピトランスクリプトーム(epitranscriptome)は、例えば環境の影響や発生段階によって常に変化している。
RNA分子は、アデニン、シトシン、グアニン、ウラシルのリボヌクレオチド塩基を、RNAが転写されるDNA鋳型によって決められた配列で含んでいる。細胞内のRNAがある特定の方法で修飾(編集)されると、神経変性疾患や自己免疫疾患などの機能障害を引き起こす可能性がある。細胞はまた、健全な恒常性を維持するために、自分自身のRNAを編集する。つまり、RNAは探求すべき多くの役割を提供しているのである。
RNA編集は、ウイルスなどの細胞侵入者に対する自然免疫反応の一部である。センシング機構は、細胞が攻撃すべき問題のあるRNAと、そのままにしておくべき『自己RNA』を区別する方法を支配している。ユタ大学のBrenda Bassは、細胞が自分自身の二本鎖RNA(dsRNA)と、自然免疫系が攻撃するウイルスのdsRNAをどのように区別しているのかを明らかにした。オーストラリアのクレイトンにあるハドソン医学研究所の Carl Walkleyは、RNA生物学者であり、自らを 「偶然の免疫学者 」と呼んでいる。時が経つにつれ、特にRNA-seqが進歩するにつれ、RNA編集の研究が容易になってきた、と彼は言う。一般的なアプローチは、RNA配列の転写産物、すなわちRNA-seqリードをヒトの参照ゲノムと比較し、RNA編集を一塩基変異などの他のタイプの変化と区別することである。
[RNAを編集しRNAを書く]
RNAに作用するアデノシンデアミナーゼ(ADAR)ファミリーの酵素はdsRNAに特異的であり、ヒトをはじめとする哺乳類に存在する。これらの内因性酵素は、アデノシン塩基のイノシンへの脱アミノ反応を触媒し、細胞内在の機構によってグアニンとして読み取られる。dsRNAでは、アデニンはウラシルと対になっているが、AからIへの変化により、アデニンはグアニンと対になっているかのように読み取られる。
ハイデルベルク大学の計算生物学者であるChristoph Dieterichは言う。「内在性RNA編集装置の大きな魅力:ゲノムを操作することなく、誤ったRNAを修正するために乗っ取ることができる。他の解決策も有効かもしれないが、より複雑で洗練されているように見える。。
RNAの変化の影響を研究するために、科学者はさまざまなアプローチを選択することができる。CRISPR-CasとガイドRNAを使ってRNAセグメントを標的にすることもできる。あるいは、細胞がRNA前駆体からイントロンを除去し、エクソンが一緒にスプライシングされる、内因性のトランススプライシングを利用することもできる。変異したエクソンを置換し、さまざまな変異を修正することができる。
Liの考えでは、トランススプライシングは古典的なRNA編集ではない。また、CRISPRは免疫系を活性化させる可能性のある外来性タンパク質を使用する。彼は、細胞自身の機械や酵素を使うRNA編集法をより高く評価している。Harvard Medical SchoolのOmar Abudayyehは、タンパク質を使わないトランススプライシングは、本質的にRNAの外科手術であり、魅力的だと考えている。「特別に設計されたRNA分子を使うことで、エクソン全体、あるいは遺伝子全体を置き換えることができるのです」、「この方法によって、大小にかかわらず、どんな編集も可能になり、真の 「RNAライティング 」の可能性が開けるのです」。AbudayyehがMcGoverin Institute/MITのJonathan Gootenbergと共同で研究しているAbudayyeh-Gootenberg研究室で開発されたこの方法は、『挿入、置換、消去のためのプログラム可能なRNA編集と切断』(Programmable RNA Editing & Cleavage
for Insertion, Substitution, and Erasure: PRECISE)と呼ばれている [bioRxiv, 2024]。これは、5′または3′トランススプライシングによって、既存のpre-mRNAに任意の長さと配列のRNAを書き込む方法である。
タンパク質を必要としないトランススプライシングは、外来性タンパク質を必要としないため、送達が容易で免疫原性も低いとAbudayyehは言う、「このRNA 「外科医 」をベクターに組み込めば、様々な組織で長期間の編集が可能になります。これは、トリプレット病のような、現在の遺伝子編集法では対処が困難な病気を治療する可能性のある方法です。「これは非常に有望な研究分野であり、RNA編集技術の次のフロンティアを示すものだと思います」。
Xiaは「RNA編集は一過性のものであり、DNAベースの編集と比べれば、永久的なオフターゲット効果を引き起こす可能性は低い」という。Walkleyは、トランスクリプトームとタンパク質の機能を一過性に再コード化する選択肢を持つことは、疾病との関連において、非常に大きな意味を持つだろう、と言う。
これまで、RNA編集はCRISPR-Cas9ベースのDNA編集の影に隠れていた。CRISPRは、生物医学界で非常に大きな注目を集め、最近のCRISPRに基づく治療法の臨床承認が、その評価を高めている。Walkleyは「RNA編集に関する臨床試験結果が蓄積され、内因性酵素を用いたRNA編集を用いた研究で肯定的な結果が出続けることが、この分野を一気に前進させるでしょう」と言う。
[注] 出典では、ここで、「Computed RNA」という段落を設けて、RNA編集の研究に向けて開発されてきた、そして、必要とされているアルゴリズム・ソフトウエアが紹介されている。続いて、「Pushing forward」という段落で、細胞内在の酵素ADARをベースとするRNA編集技術の可能性と共に、RNAを標的とするCRISPR-Casシステムを介したRNA編集技術の可能性について論じられている。また、その過程で、RNA編集治療薬の分野のスタートアップ企業が紹介されている:AIRNA;Korro Bio;ProQR Therapeutics;Wave Life Sciences;Shape Therapeutics (ShapeTX)
コメント