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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

 マイクロプラスチックという言葉は20年前に作られたが、研究者が環境や動物に含まれる微粒子の研究から、人間の健康への影響を測定するようになったのはここ10年のことだ。その間に、科学者達は調べた限りのあらゆる場所、離島、南極の新雪、西太平洋のマリアナ海溝の底、離島、食品、水、そして私たちが呼吸する空気中などで、マイクロプラスチックを発見してきた。また、マイクロプラスチックがヒトの肺や腎臓、そして、脳にも広がり、最近のNature Medicine 刊行論文 [crisp_bio 2025-02-05] は、「脳に、肝臓や腎臓のサンプルの最大30倍ものマイクロプラスチックが含まれている」と報じている。

 2014年にScopusデータベースに掲載された「マイクロプラスチック」というキーワードを含む論文は20本だった。2024年には6,000件近くが発表されている。米国国立衛生研究所(NIH)は、わずか7年前、つまり2018年に「マイクロプラスチック」という言葉を使った最初の助成金を発行した。それ以来、同機関は45以上のプロジェクトに資金を提供している。

 最近、Science Advances 誌から「マイクロプラスチックは血中に入り, 脳血栓症を誘発し, 神経異常を引き起こす可能性がある」とする論文 [crisp_bio 2025-01-29] が刊行されたが、これまでに、マイクロプラスチックが、がん心臓病腎臓病アルツハイマー病不妊症関連している可能性が示唆されてきた。また、マイクロプラスチックよりもさらに微細なナノプラスチック (1μmまたは0.1μm以下のサイズ) は、ラットでの実験で、胎盤を通過して母親から胎児に渡り、胎児組織ですぐに分散されることが報告されている。

 マクロプラスチック/ナノプラスチックの実験には、プラスチック製の実験器具の影響を見分けることから始まり、球形をしたプラスチックなどのモデル粒子と実生活で生成される粒子との差異など、さらに、形などの物理的特性や化学的特性、使用形態などの膨大なパラメーターの組み合わせが存在することといった困難が付きまとっていることから、データがまだまだ不足している。このため、マイクロ/ナノプラスチックの潜在的なリスクを一般市民や政策立案者に伝えることが難しくなっている。これはよく知られた難問である。科学者たちは長い間、大気汚染やタバコの喫煙といったテーマについて、不完全なデータに基づいて勧告を出すことに苦慮してきた。

 世界全体では毎年約4億トンのプラスチックが生産されており、その量は2050年までに2倍以上になると予測されている。仮にすべてのプラスチック生産が突然停止されたとしても、埋立地や環境に存在する既存のプラスチック(その量は約50億トンと推定されている)は、マイクロ/ナノプラスチックへと分解され続けるだろう。雪だるま式に増え続ける前に、この量に上限を設ける必要がある。

 過去2年間、世界各国はナイロビの国連環境計画 (UNEP) 主導のもと、プラスチック汚染をなくすことを目的とする条約案を議論してきた。これまでの協議では条約は成立していないが、代表団は今年中に会合を再開する予定だ。

[出典] NEWS FEATURE "Your brain is full of microplastics: are they harming you?" Kozlov M. Nature 2025-02-11. https://doi.org/10.1038/d41586-025-00405-8
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