crisp_bio

論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

[注] ファイロダイナミクス (phylodynamics) 
 生物の単一細胞の系統関係を解析することは、発生を促す基本的な細胞動態を理解する上で極めて重要である。CRISPR技術をベースとする動的細胞系譜追跡 [dynamic lineage tracing:Development, 2019] は、ゲノム編集とシーケンシング技術の最近の進歩に依存しており、遺伝可能で進化する遺伝子バーコード配列を生成し、この標的部位に確率的に配列が挿入または欠失されたデータをベースにして、in silicoで細胞系譜が再構築される。GESTALT、ScarTrace、LINNAEUSなどの手法 [crisp_bio 2018-04-12] はすべてこの原理に依存している。しかし、これまでの進化系統樹再構築に利用されてきた in silico の手法は、細胞内でCRISPR技術で標的部位に刻み込まれる変異のデータから細胞系譜を再構築するには不適切な面があった。そこで、スイスの研究チームは、新たにロバストな細胞系譜の系統樹を推定するための計算戦略の研究に取り組んできた。

 先行研究では、ベイズ推論手法を適用したTiDeTree [Proc R Soc B, 2022] を開発して、細胞系譜の系統樹と細胞集団のダイナミックなパラメーターの推定を実現し、マウスES細胞データで検証した。今回は、BEAST 2 [PLoS Comput Biol, 2014]に、GESTALTバーコードの変異過程の詳細なモデル [Ann Appl Stat, 2021]を拡張・実装することで、GABI 1絶対時間でスケールされた系統樹と細胞集団ダイナミクスの共同推定のためのGESTALTデータの解析を可能にするソフトウェアパッケージ、GABIGESTALT analysis using Baysian inference)を開発した [Figure 1引用右図参照]

 その上で、GABIを系統樹生成のためのbirth-deathモデルや[Proc Natl Acad Sci USA, 2013]coalescentモデル [Genetics, 2002]と組み合わせ、その下で細胞分裂の速度と配列決定される細胞の割合の両方の事後推定を可能にした。

 この実装により、再構築された系統樹の不確実性を表現することができ、絶対時間でのスケーリングが可能になる。さらに、このような時間スケーリングされた系統樹に基づいて、成長、分化、アポトーシスの基礎となるプロセスが、いわゆる"phylodynamic"推論によって定量化される。

 GABIの実装を検証した結果、GABIの手法がDanio rerio の初期発生に特徴的な成長ダイナミクスを頑健に推定することが実証された。

 GABIのコードベースは、https://github.com/azwaans/GABI.This で公開されている。

[出典] "A Bayesian phylodynamic inference framework for single-cell CRISPR/Cas9 lineage tracing barcode data with dependent target sites" Zwaans A, Seidel S, Manceau M, Stadler T. Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci. 2025-02-13/02-20. https://doi.org/10.1098/rstb.2023.0318 [著者所属] ETH Zurich (Dept Biosystems Science and Engineering), SIB Swiss Institute of Bioinformatics
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