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科学分野の比較的新しい論文と記事を記録しておくサイト: 主に、CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム編集, エピゲノム編集, 遺伝子治療, 分子診断/代謝工学, 合成生物学/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野) の観点から選択し、時折、タンパク質工学、情報資源・生物資源、新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症、機械学習・AIや研究公正からも選択

[注] P3 (protein-protein proximity)
 合成生物学の目標のひとつは、プログラム可能な入出力を持つ任意の分子回路の設計を可能にすることである。このような回路は、電子回路と天然の回路を橋渡しすることで、生きた細胞内で予測可能な方法で情報を処理することを可能にする。ゲノム編集ツールは、標的遺伝子の発現を調節するにしても、ゲノムDNAに情報を安定的に記録するにしても、そうした合成分子回路の強力な構成要素になりうる。しかしながら、ゲノム編集の入力として、タンパク質間相互作用や、異なる分子の誘導近接(induced proximity)などの事象をプログラムすることは、依然として困難である。

 これまでに、一定の細胞事象を記録・再生可能とするDNAタイプライターENGRAMを開発してきた米国シアトルを拠点とする研究チームは、記録・再生可能な細胞事象を拡張することを目的して、タンパク質同士の近接(protein-protein proximity)さらには生体分子や低分子とタンパク質の近接を感知して活性を発揮するゲノム編集法を考案・実証し、冒頭の課題を解決するに至り、「P3 editingP3編集)」として発表した。

 P3編集は、分子間の近接を、機能的なCRISPR-Casシステムをベースとするゲノム・エディターを標的へとガイドするRNAの生体内形成へと、変換するアプローチである。研究チームは、CRISPR-Casシステムに必須のガイドRNAを2つの部分に分割し、目的の2つの異なるタンパク質に結合できるように、追加のRNA「アダプター」を取り付けた。こうして、分割されたガイドRNAの一体化を介して、プライム編集(PE)の合成因子を活性化することが可能であることを、ヒト腎臓細胞内で実証した 
[注: PEの場合の然るべきガイドRNA(enhanced pegRNA, epegRNA)の分割法の同定と、PE版P3編集によるタンパク質間相互作用の操作例の図を、それぞれ左下と右下に引用]
A molecular proximity sensor 1A molecular proximity sensor 2
 PEに続いて、CBEとABEによるP3編集を実証し [左下図参照]、さらに、RNA発現をタンパク質発現に変換し(RADARRADARSCellREADRなどのADARベースのRNAセンサーを介して)、それをゲノム編集に変換する(P3編集を介して)大規模な合成回路において、P3編集の用途を拡張した [右下図参照]
A molecular proximity sensor 3A molecular proximity sensor 4 
 このように今回、P3編集によって分子間相互作用が感知され、直接ゲノム編集出力に変換されることが実証された。ここでは、特異的なRNA-RNA相互作用(例えばcrRNAやpetracerRNA内の2つの配列のアニーリング)、RNA-タンパク質相互作用(例えばMS2:MCPやBoxB:LambdaN相互作用)、タンパク質-タンパク質相互作用(エピトープ:抗体や化学的に誘導された二量体化)を用いてゲノム編集を制御できることが示された。将来、P3編集やENGRAMなどの既存の細胞事象記録システムが改良され、同じ単一細胞内で複数の出来事を記録し、ゲノムから細胞の過去を再構築し、それが細胞の未来をどのように形作るかを理解できるようになることが期待される。

[出典] "A molecular proximity sensor based on an engineered, dual-component guide RNA" Choi J, Chen W, Liao H, Li X, Shendure J.  (bioRxiv 2024-08-28) eLife 2025-02-12. https://doi.org/10.7554/eLife.98110.3 [著者所属] UW Seattle (Dept Genome Sciences, Institute for Protein Design, Molecular and Cellular Biology Program), HHMI, Brotman Baty Institute for Precision Medicine, Allen Discovery Center for Cell Lineage Tracing, Seattle Hub for Synthetic Biology, MSKCC Developmental Biology Program
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