大腸がん(colorectal cancer: CRC)で高頻度に見られるKRAS 遺伝子とBRAF 遺伝子の変異は強力な発がん性を帯び、MAPK/ERKパスウエイの活性化を介して、免疫療法を含む様々ながん療法に対する耐性をもたらす。中国の研究チームは今回、CRISPR-Cas9 KOレンチウイルス・ライブラリーによる抗PD1免疫療法の抑制因子のスクリーニングを介して、PHF8が抗PD1療法の有効性の負の制御因子であることを同定し、それが大腸がん細胞で高発現し、患者の生存率の低下と強く関連していることを見出した。
機能研究により、PHF8はKRAS-またはBRAF-変異型CRC細胞では発癌性の役割を果たすが、野生型CRC細胞ではそうではないことが示された。また、PHF8を標的とすることで、抗PD1療法の有効性が大幅に改善し、KRAS-またはBRAF-変異CRC細胞の悪性表現型が阻害されることが確認された [論文Fig.3参照]。

- PHF8はMHCとインターフェロン制御遺伝子の発現を抑制する。一方、PHF8はPD-L1のプロモーター内のヒストン修飾をリモデリングすることによってPD-L1の発現を亢進し、免疫逃避を引き起こす。
- 同様に、PHF8はまた、KRAS、BRAF、c-Mycの発現を、それらのプロモーター内のヒストン修飾をリモデリングすることによって亢進し、MAPK/ERK/c-Mycシグナル伝達経路を活性化する。
- さらに、c-MycはmiR-22-3pを抑制することによって転写後のレベルでPHF8を亢進する一方で、PHF8はc-Mycの発現を促進して正のフィードバックループを形成し、最終的にKRAS-またはBRAF変異CRC細胞の悪性表現型と免疫逃避を促進する。[注] 挿入図内の赤色のアスタリスクは変異KRASまたは変異BRAFを示す。
[出典] "Genome-wide CRISPR screening identifies PHF8 as an effective therapeutic target for KRAS- or BRAF-mutant colorectal cancers" Liu Z, Li Y [..] Dang C, Hou P. J Exp Clin Cancer Res. 2025-02-25. https://doi.org/10.1186/s13046-025-03338-2 [著者所属] The First Affiliated Hospital of Xi'an Jiaotong U, Zhejiang U School of Medicine.
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