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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

[注] TIGR-Tas: Tandem Interspaced Guide RNA (TIGR) array and a TIGR-associated (Tas) protein
2025-03-04 共同筆頭著者のGuilhem FaureとMax E WilkinsonのBluesky投稿へのリンクを追加
2025-03-01 Science論文に準拠した初稿
 RNAにガイドされる機能性システムは、多様な生物学的機能をプログラム可能にする驚くべき汎用性を備えている。これまでにそうした機能システムを発見してきたFeng Zhangが率いる研究チームは今回、Cas9がガイドRNAと相互作用するドメインから出発して、構造および配列の相同性に基づくマイニングを繰り返すことにより、ファージおよび細胞内寄生細菌から、Cas9からは極めて遠縁なRNAガイドDNA標的タンパク質ファミリーを発見した。

 このファミリーは、Tandem Interspaced Guide RNATIGR)アレイと、RNA結合モジュールであるNopドメインを含むタンパク質 (TIGR-associated proteins: Tasタンパク質)を特徴として、20,000を超えるメンバーを擁している。その一部ではNopドメインに、HNH(TasHと呼称)またはRuvC(TasRと呼称)ヌクレアーゼ・ドメインが融合している。TIGRアレイは36-ntのRNA(tigRNAと呼称)プロセスされ、タンデム・スペーサーの標的化機構を通して、Tasの配列特異的DNA結合を誘導する。

 TasRの構造からは、ボックスC/D snoRNPやIS110 RNAガイド・トランスポザーゼとの顕著な類似性が明らかになり [詳細の項参照]、多様なRNAガイドシステムの進化に関する知見が得られた。

 TasシステムはCRISPR-Casなどの他のRNAガイドシステムに比べて、極めてコンパクト [*]であり、Cas9やCas12などと異なり標的部位の認識にPAMを必要とせず、DNA二重鎖のいずれの鎖と相互作用し、ヒト細胞を含め、正確なDNA切断のために再プログラム可能なことから、CRISPR-Casに代わってTIGRーTasがゲノム編集ツールのベースになっていく可能性も秘めている。
[*] ファミリーで平均してCas9の4分の1のサイズ;TasAとTasHと称されるメンバーのサイズは286 aaと309 aa.

[ワークフロー] 
 これまで知られていなかったRNA結合生物学的システムを同定するため、DALIソフトウェアを利用して、tracr::crRNAガイドと相互作用するSpCas9のRNA結合ドメイン(RBD)をクエリーとするAlphaFoldデータベースの包括的な構造検索を行い、ヒットした候補をHHpred により評価した [論文Fig. 1 参照]
  • Tropocimonas IS110トランスポゾンがコードするトランスポザーゼのドメインがSpCas9のRBDと構造的に類似していることを同定した(DALI z-score 5.9)。
  • IS110トランスポザーゼがトランスポジションに必要なncRNAに結合することを実験的に確認した (IS110がRNAガイド型リコンビナーゼとして機能することは最近証明されている。また、SpCas9と構造的に類似した領域は、ブリッジRNAと呼ばれるIS110ガイドRNAと相互作用することも明らかにされている [*WF 1-2]。このドメインはSpCas9とその近縁種を含む小さなCas9クレードにのみ存在し、その欠失は抑制アッセイにおいてSpCas9の機能を損なう [*WF 3]。IS110がこのクレードの祖先のcas9遺伝子に組み込まれ、RBDの一部が保持され、ガイドRNA結合の安定化に寄与した可能性がある。
[*WF]

[出典] 
  • 論文 "TIGR-Tas: A family of modular RNA-guided DNA-targeting systems in prokaryotes and their viruses" Faure G, Saito M, Wilkinson ME [..] Zhang F. Science. 2025-02-27. https://doi.org/10.1126/science.adv9789 [著者所属] Broad Institute of MIT and Harvard, McGovern Institute for Brain Research at MIT, MIT (Dept Brain and Cognitive Science, Dept Biological Engineering), Harvard U (Dept Systems Biology), HHMI, NCBI/NLM/NIH [構造情報] EMD-48616 / PDB 9MTY: TasR TIGR RNP (contains a single guide tigRNA sequence) ;Gullhem FarureとWilkinson MEのBluesky投稿

    🚀 Thrilled to share our latest work from Zhang Lab, now published in Science (www.science.org/doi/10.1126/...) We introduce TIGR-Tas, a PAM-free, compact, modular RNA-guided DNA-targeting system in prokaryotes & their viruses. More details coming soon 👀 #TIGR #RNA #GeneEditing #CRISPR

    [image or embed]

    — Guilhem Faure (@guilhemfaure.bsky.social) 2025年3月1日 7:41

    we recently found some really neat RNA-guided DNA-cutting systems in phages. Despite remarkable similarities to CRISPR systems, including encoding guide RNAs in arrays, they appear entirely evolutionarily distinct (but definitely related to snoRNAs 🤓) We decided to call them TIGR-Tas systems 🐯

    [image or embed]

    — Max Wilkinson (@maxewilkinson.bsky.social) 2025年3月1日 9:18
  • ニュース "An ancient RNA-guided system could simplify delivery of gene editing therapies" Michałowski J. MIT News 2025-02-27. https://news.mit.edu/2025/ancient-rna-guided-system-could-simplify-delivery-gene-editing-therapies-0227
[詳細]

 CRISPR-Casシステムを典型とするRNAにガイドされる機能性システムは、エフェクターとして機能するタンパク質とその活性を相補的な核酸配列に向けるガイドRNAとからなるモジュール型システムであり、本質的に汎用性の高い分子ツールである。自然界では、RNAガイドシステムは、一つの酵素が、ロードされたRNAガイドに応じて複数の配列を標的とすることを可能にする。例えば、細菌やアーケアでは、CRISPR-Casシステムが適応免疫システムとして機能している。すなわち、CRISPRアレイに格納された(記憶された)RNAガイド配列に従って、可動性遺伝因子(MGE)のDNAやRNAが認識され切断され、CRISPRアレイが新たな外来因子に応じて更新される。真核生物では、マイクロRNAやPIWI-interacting RNA(piRNA)などの低分子RNAが、相補的な標的RNAと相互作用することで、制御反応を誘導することができる。真核生物やアーケアでは、snoRNA(small nucleolar RNA)が相補的RNAのメチル化やシュードウリジル化を誘導し、リボソームの生合成を指示する。RNAガイドシステムは、ガイドRNAを編集するという容易なプログラム性により、実験室における分子ツールの開発に大きな可能性を秘めている。

 この10年間で、ゲノム編集やエピゲノム編集、RNA編集、制御、検出へのCRISPR-Casシステムの応用は、基礎生物科学、分子医学、バイオテクノロジーに革命をもたらした。さらに、真核生物のRNA干渉も遺伝子ノックダウンの分子ツールとして利用されている。最近、原核生物のOMEGAシステム [* OMEGA]、タイプIIおよびタイプVのCRISPRシステムのエフェクターヌクレアーゼ(それぞれCas9とCas12)の祖先と思われるもの、およびそれらの真核生物のホモログであるFanzors [* FANZORs] が発見され、RNAガイドシステムの既知の多様性が大幅に拡大した。これと並行して、CRISPRに関連するトランスポゾン [* CAST] やプロテアーゼ [* PROTEASE] により、RNAガイドエンドヌクレアーゼ活性以外のRNAガイド機能が、天然で応用可能なRNAガイド分子機械のレパートリーに加わった。これらのRNAガイドシステムは、CRISPR-Casとの進化的関係に基づいて同定されたが、RNAガイドシステムの多様性を直接的に拡大するためには、より一般的なデータベースマイニング手法が必要である。

 研究チームは、構造のマイニング、配列プロファイルのマイニング、クラスタリングを統合することにより、主にバクテリオファージ、アーケアウイルス、細胞内寄生細菌によってコードされる多様なRNAガイドシステムのファミリーを発見した [ワークフローの項参照]。これらのTandem Interspaced Guide RNA(TIGR)系は、真核生物のボックスC/Dファミリーsnoリボ核タンパク質(RNP)の特徴であるNopドメインを含むタンパク質を特徴としている。TIGR系では、Nopドメインタンパク質は二重スペーサーガイドを包含する別個の長い配列に隣接してコードされている。これらのスペーサーはデュアルリピートユニットかステムループ構造内に組み込まれ、各ユニットは複数回繰り返される。

 研究チームはTIGRアレイが転写され、低分子RNAガイド(tigRNA)に加工され、TIGR関連(Tas)タンパク質がPAMに依存しない方法でDNAの両鎖を標的とすることを示した。TIGRアレイに関連する単一のエフェクタータンパク質は、コアとなるNopドメインがHNHやRuvCヌクレアーゼと融合している例など、多様なアーキテクチャーを示す。このようなエフェクタータンパク質構造のモジュール性と多様性から、TIGRシステムは標的DNAのRNA誘導切断から制御機能まで、多様な生物学的役割を果たすことが示唆される。

 研究チームは、TIGRシステムの発見、生化学的特性解析、構造解析について述べ、これらを通して、TIGRシステムのユニークなメカニズムと機能についての重要な洞察を示した。また、TIGRとIS110ファミリートランスポゾンおよびボックスC/D snoRNAとの進化的なつながりを明らかにし、それらのターゲティング・ルールを特徴付け、ヒト細胞におけるRNA誘導DNAターゲティングを含む遺伝子編集ツールとしての可能性を示した。

[*]
OMEGA
Fanzor
CAST (CRISPR-associated transposon)
PROTEASE
[Feng ZhangのX投稿]
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