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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

 この手術は米国FDAの「人道的見地から実施される治験 (expanded access program/compassionate use) 」として認可された3名の患者を対象とする研究の第一例として、2025年1月25日 (土)にMassachusetts General Hospital (MGH)の移植センターにおい行われた。MGHでは、2024年3月にブタからヒトへの腎臓移植に成功し回復も見られたが、60代の患者は2ヶ月後に亡くなられた [crisp_bio 2024-05-14]。

 今回の移植患者のTim Andrews氏(66歳)は、末期腎不全(end-stage kidney disease: ESKD)のため2年以上透析を受けており、2023年7月には心臓発作を起こすなど、深刻な合併症に直面した。腎臓移植への道は、血液型がO型であったために待ち時間が他の血液型の3~5年に対して5~10年と大幅に延びていた。年齢やその他の要因から、Andrews氏が今後5年以内にヒト腎臓移植を受けられる確率は9%であり、その期間内に重篤な合併症や死亡によって移植待機リストから外される確率は49%に達していた [*]。
[*] 透析療法に伴う5年間の死亡率は50%とされている。

 eGenesisのブタ腎臓(EGEN-2784)による移植に成功したAndrews氏は、手術からわずか1週間の2月1日(土)に無事MGHを退院し、現在は2年以上ぶりに透析を受けずに回復しており、新しい腎臓は期待通りに機能している。

 EGEN-2784はeGenesisのリード候補であり、CRISPR遺伝子編集技術を利用して、ヒトへの適合性を改善し、長期的な機能をサポートするように設計された3つのクラスの遺伝子改変が施されている: 1)超急性免疫拒絶反応を防ぐための3つの糖鎖抗原の除去 2)免疫反応を制御し、炎症を抑え、凝固適合性を改善し、補体活性化を制御するための7つのヒト導入遺伝子の挿入 3)安全性を高めるためのブタゲノム内の内在性レトロウイルスの不活性化。なお、今回も移植にあたって、主として活性化T細胞に発現するCD40Lを標的とするように設計された治験中のモノクローナル抗体であるテゴプルバート (tegoprubart)を含む独自の免疫抑制レジメンが処方されている。

 今後、Andrews氏は週3回の血液検査に加え、複数の端末を介して遠隔でモニターされ、また、生涯にわたって免疫抑制剤を服用していくことになる。、Andrews氏の予後が注目される。

[注] eGenesisのライバル企業になるUnited Therapeutics社も2025年中の末期腎不全患者へのブタ腎臓移植の治験を予定している [crisp_bio 2025-02-12]

[出典] PRESS RELEASE "eGenesis Announces Second Patient Successfully Transplanted with Genetically Engineered Porcine Kidney" eGenesis 2025-02-07. https://egenesisbio.com/press-releases/egenesis-announces-second-patient-successfully-transplanted-with-genetically-engineered-porcine-kidney/
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