
NMPの生体内取り込みをテーマとする査読付き論文において、生物学的に意味をなさないデータが発表され、ソーシャルメディア上、ニュース記事やブログ(本ブログも含み)で数千回も取り上げられていることに危機感を覚えたオーストラリアと英国の研究チームが主導して、オーストラリアの非営利団体Minderoo Foundationと共同で、「生物学的に何がもっともらしいかについての基準を確立し、コンセンサスを得る」ことを目的とする会議を、3月末に2日間インペリアル・カレッジ・ロンドンで開催する。参加者として、分析化学者、疫学者、毒物学者を含む約30名の研究者が予定されている。
[詳細]
NMPが人体組織に入り込み、健康にどのような影響を及ぼすかという問題は、当然ながら科学者、産業界、社会にとって大きな関心事である。実際、ここ数年、肺、心臓、陰茎、胎盤、母乳など、あらゆる種類の人体組織や体液にプラスチック粒子が含まれていることを報告した査読付き論文に関するニュースが、ほぼ毎月のように報道されている。そして複数の国で、政策立案者たちは人々がNMPにさらされるのを制限するための対策を実施するよう求められている。

しかし、これまでに実施された研究の多くは、サンプルサイズが小さく(通常20~50サンプル)、適切なコントロールが欠如している。現代の医療機関や研究機関は、それ自体がNMPのホットスポットであり、サンプルの採取からNMPの検出までの全ての過程での環境・器具からの新たなNMP汚染の可能性を排除し、検出されたNMPがサンプルに含まれていたことを明確に証明することは難しい。また、血液や組織サンプル内のプラスチックを同定しかつ定量化する実験の過程で、そのサンプル処理の過程でMNPに由来する化合物と同じ化合物をもたらす脂肪酸などの物質を識別する必要がある。エネルギー分散型X線分光法のように、サンプルの元素を特定可能であるが、分子構造を特定できない手法の利用にも注意が必要である。
さらに、人体内での微粒子の動きについて、主にナノ医療で知られていることに基づくと、人体でのナノマイクロプラスチックについてのこれまでの多くの発見が「生物学的にもっともらしいもの」とは見えないという問題もある。
先月発表された研究 [1]では、研究者たちが剖検された91人の脳を調べたところ、平均して脳の0.65%をプラスチックが占めていた。これは、一人当たりペットボトルのキャップ約4.5杯分のプラスチックが脳内にあったということに等しい。他の研究では、ヒトの血液サンプル中に長さ3mmにもなる大きなプラスチック粒子が存在することが報告されている [2]。脳組織から5.5~26.4マイクロメートルのマイクロプラスチック粒子と長さ19~24.5マイクロメートルの合成繊維を発見したある研究では、鼻から吸い込まれたマイクロプラスチックが神経に沿って脳の嗅球まで移動することが示唆された [3]。しかし、これまでの研究によると、1µmより大きな粒子は肺の気血関門を通過するにはおそらく大きすぎ、10µmより大きな粒子は腸血関門を通過するにはおそらく大きすぎる [4, 5]。より大きな粒子がヒト体内における生物学的バリアをどのように超える機構について説得力のある説明がなければ、10μmより大きな粒子がヒトの組織に入り込んだという結論を受け入れることは難しい。
不確かな、あるいは潜在的に欠陥のある研究に基づいた政策は、科学に対する人々の信頼を損ないかねない。環境や公衆衛生を適切に保護できない規制につながることもある。そして、より差し迫った問題から注意と資源をそらすことにもなりかねない。
ロンドンでの会議では、ナノマイクロプラスチックを対象とする研究の「標準化」と「情報共有」の枠組みを構築することを目指す。
[出典] "Are microplastics bad for your health? More rigorous science is needed" Xu JL, Wright S, Rauert C, Thomas KV. Nature 2025-03-10. https://doi.org/10.1038/d41586-025-00702-2 [著者所属] School of Biosystems and Food Engineering, U College Dublin; Environmental Research Group, School of Public Health, Imperial College London; Minderoo Centre — Plastics and Human Health, Queensland Alliance for Environmental Health Sciences, U Queensland
[引用文献]
- "Bioaccumulation of microplastics in decedent human brains" Nihart AJ et al. Nature Med 2025-02-03. https://doi.org/10.1038/s41591-024-03453-1;crisp_bio 2025-02-05 微細なプラスチックの破片がヒトの脳, 特に認知症患者の脳に, 蓄積されている https://crisp-bio.blog.jp/archives/37846983.html
- "Microplastics in human blood: Polymer types, concentrations and characterisation using μFTIR" Leonard SVL. Environ Int. 2024-05-14. https://doi.org/10.1016/j.envint.2024.108751
- ”Microplastics in the Olfactory Bulb of the Human Brain” Amato-Lourenço LF et al. JAMA Netw Open. 2024-09-03. https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2024.40018
- "Translocation of particles deposited in the respiratory system: a systematic review and statistical analysis" Nakane H. Environ Health Prev Med 2011-11-20. https://doi.org/10.1007/s12199-011-0252-8
- "Micro- and nanoplastics - current state of knowledge with the focus on oral uptake and toxicity" Paul M B et al. Nanoscale Adv 2020-10-13. https://doi.org/10.1039/d0na00539h
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