女性は男性より長生きで、生物学的には認知機能の老化も少ない [*] 。X染色体は性差をもたらしており、女性は不活性なサイレントX染色体(Xi)と活性なX染色体(Xa)を持っているのに対し、男性はXaしか持っていない。従って、サイレントXi遺伝子の再活性化が性差に寄与している可能性がある。
[*] "Sex differences in adult lifespan and aging rates of mortality across wild mammals"
Lemaître JF, Ronget V, Tidière M, Allainé D, Berger V, Cohas A, Colchero F, Conde DA, Garratt M, Liker A, Marais GAB, Scheuerlein A, Székely T, Gaillard JM. Proc Natl Acad Sci U S A. 2020-03-23. https://doi.org/10.1073/pnas.1911999117 [著者所属] Université Lyon 1, U Turku, U Southern Denmark, Species 360 Conservation Science Alliance, U Otago, U Pannonia, MPI Demographic Research, U Bath, U Debrecen.
カリフォルニア大学(UC)系の研究チームは今回、2種類の実験用マウスを交配させ、それぞれのX染色体、XiとXa、を1本ずつ持つ子孫を作製し、染色体のわずかな遺伝的差異によって実験室での検査で識別できるようにした [Fig. 1 A引用右図参照]。その上で、若いマウスと老齢のマウスの海馬にある神経細胞を含む9種類の主要な細胞で、双方のX染色体の活性を追跡した。対立遺伝子特異的な単核RNA配列決定(snRNA-seq)を用いて、加齢が雌の海馬の細胞タイプ全体にわたって、常染色体上の遺伝子に先んじて、XiとXa双方の染色体上の遺伝子発現が、細胞型特異的にほぼ全体的に上昇することを、見出した。
Xi染色体に焦点を当てた解析により、100種類を超える遺伝子が少なくとも1種類の細胞タイプで高い活性レベルを示すことが明らかになった。また、ベースラインの不活性状態からの脱出に加えて、加齢による新たな脱出も生じることが明らかになった。
加齢によって誘発されるロバストな脱出因子(escape factor)をさらに調べた結果、Xiの発現の変化が、加齢した女性の脳の認知回復力に寄与していることが示唆された。すなわち、Xiから脱出したミエリン成分Plp1 の発現が、加齢した雌マウスの海馬と雌マウスの海馬傍回で増加した。また、迷路試験を介して、AAVを介したPlp1 の発現レベル上昇により、加齢した雌マウスと雄マウス双方の海馬歯状回で認知機能が改善することを見出した。
Xiが、海馬の回復力における雌の雄に対する優位性をもたらす機構を理解することは、男女の脳の加齢や病気に対抗する新たな療法へとつながる可能性がある。
[出典]
- 論文 "Aging activates escape of the silent X chromosome in the female mouse hippocampus" Gadek M [..] Dubal DB. Sci Adv. 2025-03-07. https://doi.org/10.1126/sciadv.ads8169 [著者所属] UCSF (Dept Neurology and Weill Institute for Neurosciences, Medical Scientist Training Program, Biomedical Sciences Graduate Program, Rehabilitation Sciences Graduate Program, Memory and Aging Center, Dept Radiology and Biomedical Imaging, Dept Biochemistry and Biophysics, Bakar Aging Research Institute), UCLA (Dept Biochemistry and Biophysics, Leonard Davis School of Gerontology) USC Dornsife College of Letters, Arts and Sciences, USC Norris Comprehensive Cancer Center, Gladstone Institute for Data Science and Biotechnology, Bakar Computational Health Sciences Institute
- ニュース "Why women’s brains are more resilient: it could be their ‘silent’ X chromosome" Bourzac K. Nature 2025-03-05. https://doi.org/10.1038/d41586-025-00682-3 [注] このニュース記事では「ここでは、論文の表記に準じて、X染色体を2本持ちY染色体を持たない人を '女性'(‘women’そしてまたは‘female’)と表記している 。Nature 誌は、女性であると認識している全てのヒトがこの染色体構成を持つわけでないことを認めている」と注が付けられている。
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