ネオ抗原 (neoantigen) は、がん細胞に特有な遺伝子変異に由来する正常細胞には存在しない新たな (neo) 抗原 (antigen)であり、がんの精密医療/個別化医療の標的になりうる。ネオ抗原上のエピトープはneotpitopeと呼ばれる。
今回、UCSF脳神経外科の岡田秀穂教授とJosepf F. Costello教授、ならびにメモリアル スローン ケタリングがんセンターの Christopher A Klebanoff腫瘍内科医が共同責任著者になっている論文で、多様ながんにおけるRNAスプライシング異常に由来するネオ抗原を標的とすることで、体細胞変異が少なく腫瘍内の不均一性が大きい腫瘍に対しても有効な療法を実現できる可能性が示された。
今回、UCSF脳神経外科の岡田秀穂教授とJosepf F. Costello教授、ならびにメモリアル スローン ケタリングがんセンターの Christopher A Klebanoff腫瘍内科医が共同責任著者になっている論文で、多様ながんにおけるRNAスプライシング異常に由来するネオ抗原を標的とすることで、体細胞変異が少なく腫瘍内の不均一性が大きい腫瘍に対しても有効な療法を実現できる可能性が示された。
[詳細]
免疫細胞療法は特定の悪性腫瘍に著効を示す一方で、腫瘍組織内の細胞と遺伝的な不均一性(intratumoural heterogeneity: ITH)により、回避される。免疫浸潤が高度で変異負荷が高い腫瘍に対しては有効であるが、ITHが広範であったり、変異負荷が低い腫瘍に対しては効果を失う。体細胞における遺伝子配列の非同義置換に由来する腫瘍特異的抗原(nonsynonymous Tumor-Specific Antigen (TSA))を標的とする現在の免疫細胞療法では、変異負荷量の少ない腫瘍では標的が限られるからである。免疫細胞療法の選択肢を広げるため、最近の研究では、TSAの供給源として腫瘍に特異的なスプライシングジャンクション(neojunctions: NJs)[*]が関心を集めている。NJsは腫瘍組織に広く存在し、CD8陽性T細胞応答を活性化するTSAを生成することもできる。それにもかかわらず、腫瘍全体にわたるNJsの空間的・時間的保存性は研究されておらず、そのクローン性は不明なままである。
[*] mRNA前駆体がプロセスされる際に、イントロンの除去に伴って結合する左右のエクソンの接合部


その結果、NJs由来のTSAは分解され、一般的なヒト白血球抗原(HLA)分子上に提示されることが判明した
具体的には、GNAS 遺伝子とRPL22 遺伝子のスプライシング異常に由来するネオ抗原を認識し、標的とすることができるT細胞レセプタークローンが同定された。多部位の生検を行った症例において、神経膠腫、中皮腫、前立腺癌、肝臓癌におけるGNASネオ抗原の腫瘍全体にわたる発現を検出した。これらのネオ抗原は、生理的条件下で腫瘍細胞によって内因性に生成・提示され、それは、ネオ抗原特異的CD8陽性T細胞によるがん細胞の駆逐を引き起こすのに十分な量であった。さらに、特定のがん種におけるスプライシング因子の発現異常が、ネオ抗原のアップレギュレーションを再発させるという役割も明らかになった。これらの知見は、腫瘍内不均一性の課題に対処するT細胞ベースの免疫療法の分子基盤を確立するものである。
[出典]
- 論文 "Tumour-wide RNA splicing aberrations generate actionable public neoantigens" Kwok DW [..] Klebanoff CA, Costello JF, Okada H. Nature 2025-02-19/03-13. https://doi.org/10.1038/s41586-024-08552-0 [著者所属] UCSF (Dept Neurological Surgery, Dept Neurosurgery, Dept Pathology, Dept Bioengineering and Therapeutic Sciences), Chan Zuckerberg Biohub San Francisco, MSKCC (Human Oncology and Pathogenesis Program, Dept Medicine), Parker Institute for Cancer Immunotherapy, U Hospital Muenster (Dept Neurosurgery)
- NEWS AND VIEWS "Peptides from abnormal RNA processing in cancer offer an immunotherapy target" Charest A. Nature 2025-02-19. https://doi.org/10.1038/d41586-025-00302-0
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