[注] KSHV (HHV-8; カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス); LANA (KSHVの潜伏感染関連核抗原);CRISPR-PITA (Protein Interaction and Telomere Recruitment Assay)
イスラエルのバル=イラン大学の研究チームが、標題のCRISPR-PITAにより、相互作用するタンパク質の中には、一方のみが相手をリクルートできる一方向性のリクルートメント特性を持つものがあることを発見した。
CRISPR-PITAシステムとは
CRISPR-PITAは、dCas9-Suntagとテロメアリピート(telomeric repeat)を標的とするsgRNAとの複合体と、scFv-LANAまたはscFvとpY (LANA以外の関心のあるタンパク質) とで構成され、
SunTagシステムの10分子までのタンパク質を集める能力と、テロメアのような繰り返し配列とを利用する。こうして、LANAまたはpYが集積しているテロメア・ドットにリクルートされる細胞核内の一連のタンパク質を蛍光測定で同定する [Fig. 1引用右図参照]。

LANAとは
KSHVは宿主のヒト細胞に潜伏している間、そのウイルスゲノムがエピソームとして知られる非統合プラスミドとして感染細胞の核内に存在する。LANAは、ヒト細胞が分裂する際にウイルス・エピソームを細胞染色体につなぎとめることでウイルス・エピソームを維持する役割を担っている。
相互作用するタンパク質の間の一方向リクルートメントの発見
- CRISPR-PITAを用いて、LANAが既知の相互作用タンパク質であるORC2とSIN3A
- をリクルートすることが明らかになった。
- 興味深いことに、LANAはMeCP2をリクルートできなかったが、MeCP2はLANAをリクルートした。
- また、ヒストン脱アセチル化酵素1(HDAC1)は、LANAと同じくMeCP2の転写抑制ドメイン(TRD)とメチルCpG結合ドメイン(MBD)と相互作用するが、LANAと同様に、HDAC1はMeCP2をリクルートできなかった。一方で、MeCP2のN末端と相互作用するヘテロクロマチンタンパク質1(HP1)は、MeCP2をリクルートできた。
互いに相互作用する2つのタンパク質が、なぜ一方向のリクルートメントを生み出すことができるのだろうか?MeCP2は本質的に無秩序なタンパク質であり、溶液中では高濃度でも単量体であるが、DNAが結合すると二量体化する。
CRISPR-PITAではMeCP2のDNA結合を直接調べることはできないが、SunTagは複数のMeCP2分子を引き合わせるので、二量体化を強制する可能性がある。このことが、CRISPR-PITAでSunTagを介して二量体化を強制すると、DNAと結合できない野生型とT158M変異型MeCP2の両方がLANAをリクルートできることを説明できるかもしれない。
このことをより直接的に調べるために、フリーのSunTagでMeCP2の二量体化を強制した。この条件下で、LANAはMeCP2を感染細胞のLANA-エピソーム・ドットにリクルートすることができた。また、一方向性のリクルートメントの背後にあるメカニズムを明らかにすることで、この一方向性を断ち切ることができた。
CRISPR-PITAと今回得られた知見は、多くの細胞やウイルスの相互作用における複合体形成とリクルートメントの方向性についての理解を深めることにつながるかもしれない。
[出典] "Unidirectional recruitment between MeCP2 and KSHV-encoded LANA revealed by CRISPR/Cas9 recruitment assay" Lavi I [..] Shamay M. PLoS Pathog. 2025-03-10. https://doi.org/10.1371/journal.ppat.1012972 [著者所属] Daniella Lee Casper Laboratory in Viral Oncology, Azrieli Faculty of Medicine, Bar-Ilan U.
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