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[注] 自己増幅型mRNA (self-amplifying mRNA: samRNA)
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2024-10-08 レプリコン(自己増幅RNA)ワクチン, 日本が世界に先駆けて初承認:続くのは?

 COVID-19パンデミックの際に、それまでにのワクチン開発とは比較にならないほどの"ワープスピード"で開発されたファイザー・BioNTechとModernaのmRNAワクチンは、COVID-19の蔓延を抑え込んだだけでなく、将来のワクチン開発におけるmRNA技術の可能性を示すものであった。同時に、mRNAを使って細胞にウイルスタンパク質の産生を指令し、免疫反応を引き起こすというコンセプトが、広く認められることにもなった。インドGenova社の研究チームは、そのコンセプトをさらに広げることを目指した。

 mRNAの効果を高めて、より効率的に、より少量で済むようにしたらどうだろう?

 そこで登場したのが、Genova社の自己増幅RNA (self-amplifying RNA: SaRNA)プラットフォームである。従来のmRNAワクチンとは異なり、Genova社のSaRNAテクノロジーはmRNAの細胞内での複製を可能にし、より多くのウイルス・タンパク質を産生し、より少ない物質でより強力な免疫反応を引き出す。このアプローチはワクチンをより強力にするだけでなく、よりスケーラブルでコスト効果の高いソリューションを可能にした。

 Genova社は、特に中低所得国(low and medium income countries: LMICs)において効果的なmRNAワクチンへの公平なアクセスを確保するため、耐熱性一価SaRNAワクチンGEMCOVAC-OMを開発した。開発にあたって主な課題のひとつは、加水分解によるmRNAの水中での分解が進むことであった。この問題に対処するため、ワクチンに凍結乾燥プロセスを導入し、GEMCOVAC-OMの保存期間を延長させ、より高い温度での保存と輸送が可能になり、複雑な超低温輸送・保管システムを不要にした。これによって、医療インフラが限られている遠隔地や十分なサービスを受けていない地域にも届くようになり、ワクチンの普及率と公平性が向上する。さらに、抗原原罪、すなわち免疫刷り込み(immune imprinting)という現象から一価のオミクロン・ブースター・ワクチンを選択した。このアプローチは、多様な集団において、より変異体特異的な免疫反応を引き出すことを目的としている。さらに、筋肉注射に変えて、樹状細胞、マクロファージ、T細胞などの多様な細胞が密集している真皮層へワクチンを注入可能にする皮内注射を選択し、より強固で包括的な免疫原性応答を獲得した。

 こうして開発したオミクロン B.1.1.529 株のスパイクタンパク質をコードする自己複製 mRNA(samRNA)ワクチン GEMCOVAC-OM と、武漢株スパイクタンパク質をコードするアデノベクターワクチン ChAdOx1 nCoV-19 をブースターとして投与した場合に誘導される細胞性免疫の幅を、多施設共同無作為化第 3 相試験(Clinical Trial Registry India identifier: CTRI/2022/10/046475)において、比較した。

 GEMCOVAC-OMは、ChAdOx1 nCoV-19と比較して、オミクロンB.1.1.529に特異的なメモリーB細胞(MBC)の有意な増殖を誘発した。GEMCOVAC-OMはまた、オミクロンXBB.1.5およびBA.2.86スパイクタンパク質に反応するB細胞をより多く誘導した。さらに、GEMCOVAC-OMは、幹細胞、中枢性、エフェクターメモリーサブセットを含むオミクロンスパイク特異的T細胞を高頻度に誘導した。

 SaRNAプラットフォームベースのワクチンGEMCOVAC-OMで観察された細胞応答は、感染症や癌に対する将来のワクチン開発に変革の機会を与えるものである [挿入図参照]。GEMCOVAC-OMが示したB細胞反応と多機能性T細胞反応の幅の広さは、このプラットフォームが包括的な免疫反応を引き起こす能力を有していることを裏付けている。さらに、増強されたメモリーT細胞反応、特に観察されたT細胞幹細胞性は、このプラットフォームが長期にわたる免疫を提供する可能性を示唆している。

 感染症に関しては、SaRNAプラットフォームが持つ幅広い免疫活性化能力は、病原体の急速な変異がもたらす課題を克服するのに役立ち、幅広い変異体に対する防御を確実にする。さらに、このプラットフォームは、標的化された耐久性のある免疫応答を誘導する可能性があるため、従来の方法では十分な免疫を提供できないことが多かったHIVや結核のような複雑な疾患のワクチン開発において、大きな利益をもたらす可能性がある。

 がん免疫療法の文脈では、多機能 T 細胞やメモリー T 細胞を含む強力で多様な免疫反応を生成できるこのプラットフォームの能力は、抗腫瘍免疫を刺激するワクチンの開発への扉を開き、がん治療戦略に革命をもたらす可能性がある。

[出典]
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