[背景]
養子細胞療法( adoptive cell therapy, ACT)や免疫チェックポイント阻害療法(immune checkpoint blockade, ICB)などの免疫療法は、特定のがん治療において画期的臨床効果を示している。CD8+ T細胞は、細胞傷害性顆粒を放出し、炎症性サイトカインを産生することで、がん免疫サイクルと免疫療法効果に貢献する。特に、IFNγは腫瘍抗原提示を増加させ、免疫細胞のリクルートと腫瘍微小環境(tumour microenvironment, TME)のリモデリングを仲介するケモカインの産生を増加させることにより、腫瘍制御に寄与している。従って、IFNγシグナルが、ACTやICBの免疫療法の成功の鍵を握っている。ほとんどの固形がん患者において、免疫療法は持続的な臨床効果が得られない。この原因は、IFNγ経路関連遺伝子の機能喪失変異にある。
がんがどのようにして免疫監視機構を回避しているのか不明なままである中で、IFNγやCD8+ T細胞による細胞傷害作用に対する腫瘍の抵抗性を克服するメカニズムを標的とすることは、強力な抗腫瘍効果を誘導し、免疫療法反応を最大化する上で有望である。
腫瘍微小環境(Tumor microenvironment, TME)は、腫瘍免疫の逃避に寄与するがん細胞と免疫細胞間の栄養競合と代謝コミュニケーションによって特徴づけられる。さらに、がん細胞におけるミトコンドリア複合体Iやオートファジーを介した電子の流れを含む代謝関連プロセスを標的とすることで、抗腫瘍免疫とICBが再活性化される。しかしながら、代謝やそれに関連するシグナル伝達事象に関連するものを含め、免疫逃避を媒介する腫瘍細胞内の分子や経路に関する体系的な理解は不十分である。
[成果]
腫瘍免疫回避の根底にある代謝関連因子を同定するために、研究チームはCas9およびオバルブミン(OVA)発現B16F10(B16-OVA)メラノーマ細胞に、3,017個の代謝関連遺伝子を標的とするsgRNAライブラリーを形質導入し、CRISPRドロップアウトスクリーニングを実施した。また、モデルマウスでの相補的スクリーニングも実施した。
その結果、インターフェロン-γ(IFNγ)が仲介する腫瘍破壊と腫瘍微小環境の炎症性リプログラミングを抑制する免疫シグナル依存性チェックポイントとして、電位依存性アニオンチャネル2(VDAC2)を特定した。また、VDAC2欠損誘導作用のメディエーターとしてBAKを同定した。
腫瘍細胞のVDAC2を標的とすることで、IFNγによる細胞死とcGAS-STINGの活性化が可能になり、抗腫瘍効果と免疫療法反応が著しく改善した。IFNγ刺激によってBIM、BID、BAKの発現が亢進し、VDAC2欠損が制御不能なIFNγ誘導BAK活性化とミトコンドリア損傷をもたらし、その結果、ミトコンドリアDNAは細胞質に異常放出され、cGAS-STINGシグナルの強力な活性化とI型IFN応答を引き起こした。
重要なことに、STINGシグナル伝達成分の共欠失は、腫瘍細胞におけるVDAC2枯渇の治療効果を減弱させた。このことは、VDAC2を標的とすることで、CD8+ T細胞およびIFNγを介する適応免疫と腫瘍内在性の自然免疫様応答が統合されることを示唆している。
これらの知見を総合すると、VDAC2は腫瘍の免疫回避を克服する二重に作用する標的であることが明らかになり、有効ながん免疫療法を可能にするためには、腫瘍の破壊と炎症を協調的に行うことが重要であることが立証された。
[参考図]
[出典] "VDAC2 loss elicits tumour destruction and inflammation for cancer therapy" Yuan S, Sun R [..] Chi H. Nature 2025-03-19. https://doi.org/10.1038/s41586-025-08732-6 [著者所属] St. Jude Children’s Research Hospital (Dept Immunology, Experimental Cellular Therapeutics Laboratory, Dept Bone Marrow Transplantation and Cellular Therapy)
コメント