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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

 TnpBはIS200/IS605およびIS607トランスポゾンにコードされるRNA誘導型エンドヌクレアーゼの多様なファミリーであり、タイプV CRISPR-Cas酵素(Cas12)の進化的祖先と考えられている。TnpBは、非コードの5'スキャフォールドと3'可変領域を持つright end element RNA(reRNAまたはωRNA)に結合し、トランスポゾン関連モチーフ(TAM)に近接した相補的DNA配列でのリボ核タンパク質(RNP)の切断を誘導する [crisp_bio 2023-08-17参照]TnpBはCRISPRタンパク質ファミリーに共通するコアドメインを保持しかつコンパクトなことから、ゲノム編集ツールのベースになり得る。しかし、ほとんどのTnpBは頑健な遺伝子編集活性を示さない。

 一方で、これまでにCas9やCas12などのCRISPR-Cas酵素の高活性な変異体が、タンパク質工学や合理的設計によって発見されているが、TnpBでは、核酸への結合、触媒中心の活性化、DNA切断のダイナミックな協調の間に大きな構造変化を起こすため、変異の影響を予測することは困難である。今回、 今回カリフォルニア大学バークレー校のDavid F. Savage准教授が責任著者でDoudnaノーベル賞受賞者が共著者の一人に加わっているプレプリントにて、TnpBリボ核タンパク質の配列-機能ランドスケープを網羅的にマッピングすることで、タンパク質とreRNAの両方に多くの活性化変異を発見したことが報告された。

 ディープ・ミューテーショナル・スキャンニング(Deep mutational scanning, DMSと呼ばれるアプローチは、通常、関心のあるタンパク質の全てのアミノ酸にわたり、個々に変異させた変異体を合成し、その活性を評価する。DMSは効果的にタンパク質機能の包括的なマップを提供するが、タンパク質のサイズによって実質的に制限されることが多いが、コンパクトでRNAスキャフォールドを帯びているTnpBは、このアプローチに適している。

 Savageらは、ISDra2 TnpB RNP全体についてDMSを実施し、DNA切断のポジティブ・セレクションアッセイを利用して、TnpBタンパク質およびそのreRNAにわたる配列(1アミノ酸変異)と機能のランドスケープを捉えた。その中で、DNAの結合と切断に関与するダイナミックな領域が解明され、変異がDNA切断活性を増加させるreRNAの二次構造内の変異ホットスポットも特定された。

 DMSに由来する1アミノ酸変異の多くは自然界ではあまり観察されないが、その20%が野生型(WT)TnpBタンパク質に対して、活性を増加させる"活性化変異"であることが明らかになった。この発見は、ネイティブなISDra2 TnpB活性が、おそらくトランスポゾンに関連したホーミング・エンドヌクレアーゼとしての役割に起因する負の選択にさらされている可能性を示唆している。

 研究チームはさらに、"活性化変異"のコンビナトリアルライブライーから、高活性なタンパク質変異体を同定した。これらの変異体の編集活性は、野生型TnpBに比して、ヒト細胞では2倍以上、ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)では50倍以上まで、向上した。

 こうして、TnpBタンパク質とRNAの双方におけるエンドヌクレアーゼ活性の制御に重要な未知の要素が明らかになり、変異によってアクセス可能な潜在的活性が発掘された。

[出典] "Latent activity in TnpB revealed by mutational scanning" Thornton BW, Weissman RF [..] Doudna JA, Savage DF. bioRxiv. 2025-02-16 (preprint). https://doi.org/10.1101/2025.02.11.637750 [著者所属] UC Berkeley (Dept Molecular and Cell Biology, Innovative Genomics Institute, Dept Chemistry, Dept Plant and Microbial Biology, California Institute for Quantitative Biosciences), Gladstone-UCSF Institute of Genomic Immunology, LBNL Molecular Biophysics and Integrated Bioimaging Division, HHMI
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