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 ヒトは通常、生後3年間に起こった出来事(エピソード)を覚えていない。この現象はジークムント・フロイトによって幼児健忘infantile amnesia)と名付けられた。この幼児健忘が、脳が未熟すぎて記憶が形成されないからなのか、それとも記憶が形成されても忘れられてしまうのか、1世紀以上にわたって謎であった。イエール大学のNicholas B. Turk-Browne教授ら米国の神経科学や心理学の研究者のチームが今回、機能的磁気共鳴画像法 (fMRI) を利用して、乳幼児 (生後約 4~25 か月) が記憶課題を行っている際の振る舞いと海馬の神経活動のパターンの観察から、乳幼児 はエピソードを海馬に符号化(エンコード)*しているが、それを想起*(デコード: crisp_bioの超訳)できないことが幼児健忘の原因であることを示唆した

 符号化(または記銘)は記憶の心理過程のひとつである。記憶は大きく分けてエピドードの符号化・保持・想起の3つの過程から構成されていると考えられており、符号化は情報を取り込んで記憶情報として保持されるまでの「憶える」過程を指している。
 (記憶の中で)エピソード記憶の符号化に関連する神経活動の検証には、subsequent memory (SM)パラダイム [Trends Cogn Sci., 2002]を用いた方法が多く採用されている。このパラダイムでは、符号化時の実験条件を後の想起が成功したか(subsequently remembered)、失敗したか(subsequently forgotten)によって分類し、後の想起が失敗した記銘時の試行よりも、後の想起が成功した記銘時の試行において有意に活動が増加した(difference in memory effect, Dm効果)脳領域を求めることによって、記銘の成功(successful encoding)に関連する神経活動のパターンを同定することができる。

 Turk-Browne教授らは先行研究で、fMRIの装置の中でじっとしていられないであろう覚醒している乳幼児 を対象にして、海馬の活動パターンを記録し解析することに成功していた ["The promise of awake behaving infant fMRI as a deep measure of cognition" Yates TS, Ellis CT, Turk-Browne NB. Current Opinion in Behavioral Sciences. 2020-12-24; 今回出典のYaleNews記事挿入写真参照]

 今回、スキャナー内で26人の乳幼児に顔、風景、物体の画像 (エピソード記憶の「構成要素」) を2秒間見せた。その後、間を置いてから、乳幼児に2つの画像を並べて見せた。1つは以前に見たことのある見慣れた画像、もう1つは新しい画像だ。研究者たちは乳幼児 の目の動きを追跡し、どちらの画像に長く焦点を合わせたかを記録した。乳幼児 は見慣れた画像は長く見る傾向があることから、長く見ない画像と長く見る画像を見ている間の海馬の血中酸素レベル依存性 (BOLD) 活動 (局所神経活動と相関する信号) を比較した。

 その結果、見慣れた画像に対して海馬における全体的な BOLD 活動が有意に高いという結果が得られた。また、乳幼児が後のテストでより集中して見ていた画像を符号化しているとき、海馬がより活発に活動していることが、全ての乳幼児で観察された。ただし、この現象は全体的に見慣れた画像を好む傾向を示した乳児と 12 か月以上の幼児でより明確であった。さらに、この効果は後部海馬でも最も強く、さらに年長幼児では眼窩前頭皮質も関与していた。これらの発見は、生後 1 年頃までに、少なくとも何らかの形で個々の経験の海馬による迅速なワンショット符号化が出現することを示唆した。

 これらの知見は、幼児健忘の原因は、符号化の過程にあるのではなく、符号化後のメカニズムにある可能性が高いことを示唆している。

[出典] 
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