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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

 食糧安全保障にとって重要な世界的作物である小麦は、気候変動と人口増加による課題に直面しており、将来の生産には収穫量の向上が不可欠となっている。植物の成長と発育に重要な転写因子として、植物に特有なWUSCHEL 関連ホメオボックス (Wox 遺伝子) が知られている。しかし、作物における Wox を介した千粒重(Thousand Kernel Weight: TKW)の制御の分子メカニズムは不明である。

 中国の研究チームが今回、4種類の環境で中国の小麦のミニ・コアコレクション (mini-core collection: MCC) のゲノムワイド関連研究 (GWAS) を実施し、広範囲の TKW を示す小麦粒のバルク分離体分析 (Bulked Segregant Analysis: BSA) とバルク分離体 RNA シーケンシング (BSR-seq) を組み合わせることで、小麦染色体 5DS 上の主要な TKW 関連量的形質遺伝子座 (QTL) を特定した。

 候補として上がってきたTaWUS-like-5D は、発育中の穀物で高度に発現しており、穀物の TKW と小麦の収量に強い悪影響を及ぼすことが明らかになった。一方で、RNAi系統、CRISPR/Cas9編集によるシングルとダブルノックアウト変異体(AABBddおよびAAbbdd)、および、終止コドンを生成する(ストップゲイン)aaBB Kronos変異体では、穀粒サイズとTKWが大幅に増加し(P < 0.05またはP < 0.01)と、収量も増加(10.0%, P < 0.01)した。

 さらに、TaWUS-like-5D がショ糖、ホルモン、トレハロース代謝関連遺伝子の転写を阻害することでTKWを制御し、その後小麦穀物のデンプン合成を大幅に減少させることも明らかにされた。

[出典] "TaWUS-like-5D affects grain weight and filling by inhibiting the expression of sucrose and trehalose metabolism-related genes in wheat grain endosperm" Liu HX [..] Has CY, Zhang XY. Plant Biotechnol J. 2025-03-06. https://doi.org/10.1111/pbi.70015 [著者所属] Institute of Crop Sciences CAAS (State Key Laboratory of Crop Gene Resources and Breeding), China Agricultural U (Frontiers Science Center for Molecular Design Breeding)
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