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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

 がんの進行は、多様化と選択のプロセス(進化のプロセス)として理解されてきた。免疫系もこの多様化と選択のプロセスに関与し、その過程は、排除 (elimination),平衡 (equilibrium) ならびに逃避 (escape) の連続する三段階からなる「がん免疫編集 (cancer immunoediting) 」という概念にまとめられている。すなわち、がん細胞は、免疫監視による排除の圧力の中で選択され、免疫系との平衡状態から、複数の免疫抑制メカニズムを徐々に備え、臨床的に明らかながんの発生につながるという連続的なモデルである。

 一方で、ヒトがんに焦点を当てた最近の研究において、単一のドライバー発がん性変異を抱えていることが多い特定の非炎症性がんは、悪性転換の時点ですでに免疫監視を回避するのに十分な免疫抑制機構を備えていることが明らかにされている。例えば、上皮成長因子受容体(EGFR)変異肺がんなどにおいて、がん細胞の遺伝子変異が免疫抑制性細胞を動員して免疫抑制性の腫瘍微小環境 (tumor microenvironment: TME) の形成に寄与する。これは、「がん免疫編集」仮説では十分に説明できない。

 ここでは、がん細胞と免疫系が共進化して臨床的に明らかながんを確立するプロセスについて説明し、がん細胞が持つゲノム異常が直接周辺の免疫系に影響を与え、TMEに免疫抑制ネットワークを構築するという腫瘍生物学の新しい概念「免疫ゲノムがん進化 (immunogenomic cancer evolution)」という新しい概念を紹介し、個別化「免疫ゲノムがん精密医療 (immunogenomic cancer precision medicine)」の可能性の根拠を提示する。

[出典] "Immunogenomic precision medicine: a personalized approach based on immunogenomic cancer evolution" Momoi Y, Kumagai S, Nishikawa H. Int Immunol. 2025-03-29. https://doi.org/10.1093/intimm/dxaf020 [著者所属] 国立がん研究センター (腫瘍免疫), 東大 (腫瘍病理), 名大 (免疫), 京大 (がん免疫多細胞システム制御), 近畿大 (医);グラフィカルアブストラクト 

[参考]
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