[注] ADAR(adenosine deaminases acting on RNA/RNAに作用するアデノシンデアミナーゼ)は二本鎖RNAに含まれるアデノシンをイノシンへと塩基修飾するRNA編集酵素
上海を拠点とする研究者を主とする研究チームが、Magnets システムと融合したスプリット型 ADAR2 デアミナーゼドメイン (ADAR2dd) に、コンパクトなCRISPR-Cas13Xエフェクタータンパク質の不活性化版 (以下、dCas13X)とそのガイドRNA(crRNA)とを組み合わせることで、光活性化 A-to-I RNA 塩基エディター (PhotoActivatable RNA Adenosine Base Editor: PA-rABE) *を開発し、青色光照射時に機能的なデアミナーゼの組み立てとA-to-I編集を実現した。
[*] 構成:dCas13–ADARddC–nMagとpMag– ADARddn (nMag = negative Magnet; pMag = positive Magnet), 論文Fig. 1参照。
- PA-rABE は、バイスタンダー編集とオフターゲット効果を最小限に抑えながら、内因性 RNA の非常に効率的な編集を実現する。
- PA-rABE は、内因性 CTNNB1 遺伝子のリン酸化部位を編集することにより、β-カテニンタンパク質を安定化し、生体内で Wnt シグナル伝達を活性化する。
- アデノ随伴ウイルスベクターを使用して PA-rABE を、外因性の未熟終止コドンを含む hF9 変異体とともに送達することで、光照射により血友病 B マウスの凝固障害が改善される。
- PA-rABEは適切な送達方法を選択することで、マウスの体内で外因性遺伝子と内因性遺伝子の両方を活性化できる。
PA-rABE は、CAR-T細胞療法を含むさまざまな生物医学的用途に、制御されたRNA塩基編集技術を提供し、可逆的かつ時空間的に特異的な調節を可能にする。
[参考] RNA編集技術開発の経緯 - 先行研究の光誘導A-to-I RNAエディターpadCas13dなど
遺伝子治療は、遺伝性疾患、癌、その他のさまざまな人間の疾患に対して、驚くべき治療効果と潜在的な治療法をもたらしてきた。その中で、永続的なゲノムDNAの編集と異なり、RNAの編集は、より安全かつ標的タンパク質レベルでの制御を容易にし、新たな遺伝子治療へ道を開く可能性を秘めている。特に、プログラム可能なRNA塩基編集が、外因性および内因性RNA分子の不活性化と活性化を制御するにに有望な技術として浮上している:
- 内因性アデノシンデアミナーゼ(ADAR)タンパク質を、然るべく設計したガイドRNAを介してリクルートすることで部位特異的なAからIへの編集を行うアプローチ;RESTORE、LEAPER、CLUSTER、cadRNAベースのシステムなど
- 外因性 ADARに、然るべき RNA 結合モジュールを融合して塩基変換を触媒するアプローチ;人工ヒト O6-メチルグアニン DNA メチルトランスフェラーゼ (SNAP)–ADAR、短いステムループ RNA 構造 (BoxB)-ラムダ N タンパク質 (λN)–ADAR、Pumilio/fem-3 結合因子 (PUF)–ADAR、CRISPR–Cas誘導RNA 塩基エディター [crisp_bio 2017-10-05, crisp_bio 2022-02-16, Cell 2019、および CRISPR-Cas に触発されたRNAターゲティング システム (CIRTS)
しかしいずれのアプローチも、構成的なデアミナーゼ活性に依存することから、時空間的に柔軟に調節することは困難である。そこで、アブシジン酸誘導性 CIRTSやジベレリン酸誘導性 SNAP-ADARシステムといった化学的誘導システムが開発され、時間的および用量依存的な制御が可能になった。それでも、低分子の急速な拡散や代謝の影響から高精度な時空間制御は実現されておらず、また、生体内での副作用のリスクを伴っている。
化学的誘導よりも高精度な時空間制御を期待できる光誘導の利用も試みられている。しかし、これまでの光活性化可能なA-to-I RNA塩基編集システムは、光ケージ生体分子に依存しており、紫外線曝露による直接的なDNA損傷や光誘導性細胞毒性などのリスクを伴っている。さらに、高度に化学的に修飾されたアンチセンスオリゴヌクレオチドを使用するこれらのシステムは、遺伝子エンコーディングに課題があり、生体内アプリケーションでの耐久性が制限されている。
最近、韓国の研究チームが、遺伝子コード化された光誘導性 RNA 塩基編集技術、padCas13 エディターを開発した [crisp_bio 2024-01-26]。これは、PspCas13bの不活性化版 (dCas13b)をスプリットし、完全なADAR2 デアミナーゼドメイン (ADAR2dd) バリアントと組み合わせ、光によってdCas13bを復元することで、 A-to-I RNA変換を実現している。しかし、活性 ADAR2dd タンパク質の異所性発現はトランスクリプトーム全体のオフターゲット効果を誘発し、in vitro および in vivo でかなりのバックグラウンドノイズが発生するという懸念を引き起こす。
今回、上海の研究チームは、ADAR2ddをスプリットし、青色光の存在下でのみADAR2ddが再構成されてデアミナーゼ活性が発揮されるようにすることで、バックグラウンドノイズを排除した。また、様々な送達方法を利用することで、外因性遺伝子と内因性遺伝子を同時に誘導的に活性化または不活性化することも可能にした。
[ADARとCas13X関連crisp_bio記事]
- 2024-01-26 光活性化CRISPR-Cas13を開発し, プログラム可能なRNA塩基編集へと展開. (padCas13)
- 2024-07-16 ゆらぎ塩基対を組み込んだCLUSTERガイドRNAを用いて, 生体内での正確なRNA塩基編集
- 2023-11-18 [レビュー] RNA塩基編集.
- 2022-03-01 CRISPRを介さずADARを介してRNA編集ツールの効率を向上
- (circular ADAR-recruiting guide RNAs: cadRNA)
- 2022-02-03 CLUSTERガイドRNAにより,生体内の内因性ADAR酵素を介した正確かつ効率的なRNA編集を実現
- 2021-05-07 メタゲノムからのコンパクトなRNA標的Cas13ファミリーを発見し,RNAの分解と編集に応用 (Cas13X)
- 2019-07-16 細胞内在RNA編集酵素のガイドRNAを設計・合成し、高い安全性・効率・精度でのA-to-I RNA編集を実現 (LEAPER)
- 2017-10-05 CRISPR-Cas13によるRNAターゲッティングとエディティング
- (dCas13b-sgRNAとADAR2: REPAIR)
[出典]
- 論文 "Engineering a photoactivatable A-to-I RNA base editor for gene therapy in vivo" Li H, Qiu Y, Song B, Quan X [..] Du B, Liu M, Li D. Nat Biotechnol. 2025-03-31. https://doi.org/10.1038/s41587-025-02610-2 [著者所属] East China Normal U (Shanghai Frontiers Science Center of Genome Editing and Cell Therapy), Southern Medical U Affiliated Fengxian Hospital, Hangzhou Institute of Medicine CAS, Stockholm U (Dept Molecular Bioscience), BRL Medicine Inc (Shanghai);Fig. 1 Engineered PA-rABE.
- Research Briefing "A light-inducible RNA base editor for precise gene expression" Li H & Li D. Nat Biotechnol. 2025-03-31. https://doi.org/10.1038/s41587-025-02621-z
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