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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

 CRISPRシステムは、ヒト多能性幹細胞(hPSC)を用いた疾患モデル研究に広く利用されている。一方で、環状RNAはRNAの免疫原性を効果的に低減し、RNAの安定性を向上させるため、in vivoでのDNA編集に貢献している。中国の研究チームが今回、ガイドRNAとCRISPR塩基編集エレメントの双方を環状化し、それらを用いて幹細胞疾患モデルを構築するプロセスについて概説している。本研究は、遺伝子ポイント編集細胞株の構築に関する段階的なガイダンスを提供し、疾患モデル研究および治療研究のための信頼性が高く免疫原性の低い代替手段を提供します。

 近年、ヒト多能性幹細胞(hPSC)にCRISPR/Casシステムによる遺伝子編集技術が加わったことで、hPSCをベースとする疾患モデル構築が加速してきた。北京と深圳の研究チームは、先行研究で、ABE8e-SpRYを用いてhPSCに塩基編集を導入し、変異細胞株とノックアウト細胞株を樹立した [*]。その際、ABE8e-SpRYとガイドRNA(gRNA)をプラスミドを介して細胞に導入し、ピューロマイシン耐性スクリーニングによってモノクローナル細胞を選抜した。しかし、プラスミド導入と抗生物質選抜には、編集効率の低下、細胞毒性の上昇、そしてスクリーニングプロセス中に望ましくない幹細胞分化を引き起こす可能性のあるゲノム統合の潜在的リスクなどが伴っている。

 環状RNA(circRNA)は、真核細胞に存在する安定した一本鎖RNA分子の一種である。直鎖状gRNAに対して環状gRNAは、真核細胞において安定性が著しく高く、in vitroおよびin vivoにおけるDNAとRNAの両方の編集効率を向上させながら、複数の標的部位および細胞株に対する特異性を維持する。また、circRNAは細胞へのダメージを最小限に抑え、一時的なmRNA発現によって機能的な役割を果たすため、ゲノムに組み込まれるリスクを回避することができ、幹細胞編集に特に適している。しかしながら、疾患モデル作成におけるcircRNAの応用を検討した研究はこれまでなかった。

 研究チームはgRNAに加えてABE8e-SpRYも環状化し、hPSC疾患モデルを作成するアプローチを実装した [論文図1参照]グループIイントロン自己スプライシングシステムを用いてgRNAとABE8e-SpRYを環状化し、精製した環状mRNA(ABE8e-SpRYとgRNA)を幹細胞トランスフェクション試薬を用いて細胞に導入した。標的細胞クローンはフローサイトメトリーによって迅速に得られた。具体的に、2つの疾患関連標的、HCN4 c.1435 A > G (p.I497 V) とKCNQ1 c.1032 + 2 A > G 樹立のプロトコルが詳述されている。

 化学刺激が少なく、ゲノム統合のリスクが最小限であるこの遺伝子編集戦略は、疾患モデリングおよび遺伝子機能研究において、従来の線形アプローチに代わる信頼性が高く安全な代替手段となる。

[*] 先行研究論文
[出典] "Circular CRISPR Edits Human Pluripotent Stem Cells for Disease Modeling" Bao W [..] Lan F, Ma S. Stem Cell Rev Rep. 2025-04-07. https://doi.org/10.1007/s12015-025-10871-2 [著者所属] National Center for Cardiovascular Diseases (Beijing), Southwest Medical U, Fuwai Hospital Chinese Academy of Medical Sciences;参考図 Fig. 1
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