HEK293T細胞は、バイオ産業において、組み換えタンパク質やウイルスベクターの生産に広く利用されている。ヒト由来であることから、ヒトを対象とする生物製剤の生産に特に適しており、CHO細胞などの非ヒト細胞株と比較して、より正確な翻訳後修飾が保証され、免疫原性が低減されている。しかし、HEK293T細胞には、タンパク質発現の一貫性の欠如や大規模生産のためのスケーラビリティの課題などから来る限界があった。
Catholic University of KoreaのSay-June Kimが率いる研究チームは、先行研究で、ATF4遺伝子をCRISPR-Cas9でノックアウトすることで、HEK293T細胞における膜タンパク質生産の増強が可能なことを示した [Biomol Biomed, 2025-01-21]。今回、ATF4遺伝子のC末端を欠損させることで、HEK293T細胞での膜タンパク質産生を強化することに成功した。
Catholic University of KoreaのSay-June Kimが率いる研究チームは、先行研究で、ATF4遺伝子をCRISPR-Cas9でノックアウトすることで、HEK293T細胞における膜タンパク質生産の増強が可能なことを示した [Biomol Biomed, 2025-01-21]。今回、ATF4遺伝子のC末端を欠損させることで、HEK293T細胞での膜タンパク質産生を強化することに成功した。
研究チームは、膜タンパク質の効率的生産に向けて効果的な遺伝子標的を同定するために、まず、ATF6A、IRE1A、IRE1B、PERK、およびATF6Bを含む小胞体ストレス応答(unfolded protein response: UPR)関連因子を標的とするsgRNAを設計・評価し、編集効率が高かったATF6Bをさらなる調査の主要標的として選択した。
膜タンパク質は、比較のためにATF6B C末端欠失細胞株(ATF6B-ΔC)と野生型(WT)細胞株の両方から抽出し、フローサイトメトリーを用いて、膜GFP発現細胞でのGFP発現を解析することにより、膜タンパク質産生を評価した。
その結果、ATF6B-ΔC HEK293T細胞では、WT細胞と比較して膜タンパク質産生が約40 ± 17.6%有意に増加(p < 0.05)することを見出した。シーケンシングからATF6B-ΔC編集細胞では、11、14、1、および10 bpの欠失されていることが明らかになり、これによりエクソン配列が破壊され、エクソンスキッピングが誘発され、未熟な終止コドンが導入され、正常なタンパク質発現が抑制されたことも明らかになった。フローサイトメトリーにより、ATF6B-ΔC細胞でGFP強度が23.9 ± 4.2%増加したことが確認され、膜タンパク質産生の増強が裏付けられた。
これらの知見は、CRISPR-Cas9を介したATF6B遺伝子のC末端欠失が、UPR経路を活性化し、ミスフォールドタンパク質への細胞の対応能力を向上させることで、HEK293T細胞における膜タンパク質生産を効果的に促進できることを示唆している。
[出典] "CRISPR-Cas9-Mediated ATF6B Gene Editing Enhances Membrane Protein Production in HEK293T Cells" Choi HJ, Kim BR, Kim O-H, Kim S-J. Bioengineering. 2025-04-11. https://doi.org/10.3390/bioengineering12040409 [著者所属] Catholic U Korea, Surginex Co Ltd.
コメント