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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

 肝細胞がん(HCC)は、局所的な染色体増幅を頻繁に起こし、その結果、遺伝子発現レベルが上昇する。メイヨー・クリニックとペンシルベニア大学の研究チームは今回、これらの増幅部位内のどの遺伝子が、がんドライバー遺伝子であるかを同定することにより、これらの十分に解明されていない遺伝子変化の役割を解明することを目的として、マウス肝臓におけるCRISPRaスクリーニングを実施した。

 はじめに、TCGAのデータを用いて、コピー数増幅および発現上昇が頻繁に起こる遺伝子はすべてヒト染色体1qおよび8qに存在することを同定した。

 2025-04-19 6.33.48次に、肝臓におけるガン化は、MYC の生体内過剰発現が長い潜伏期間を伴って促進し、他のがん遺伝子の共発現やがん抑制因子の阻害によって大幅に加速されることから、MYC 発現とガイドRNA(gRNA)発現を組み合わせた生体内CRISPRaスクリーンを設計・実行した [論文紹介Editorial記事から引用した右図参照]。スクリーニングの結果は、別のマウスで広範囲に検証され、腫瘍形成を促進するメカニズムを解明するためにRNA-seqを実施した。

 その結果、ヒト染色体1q遺伝子であるZbtb7bVps72Gba1、およびMrpl9 が肝腫瘍形成のドライバーとして浮上した。ヒトHCCでは、MRPL9、VPS72、またはGBA1 の発現レベルと生存率低下の間に相関する傾向がある。

 検証アッセイでは、Vps72Gba1、またはMrpl9 の活性化が、マウスにおいて広範な肝腫瘍形成と生存率低下をもたらした。RNA-seqからは、HCCを誘導する異なるメカニズムが明らかになった。すなわち、Mrpl9 活性化はミトコンドリア機能に関連する遺伝子を変化させ、Vps72 活性化はリン脂質代謝を変化させ、Gba1 活性化はエンドソーム-リソソーム活性を高めることで、いずれもが細胞増殖を促進する。 MRPL9VPS72、またはGBA1 の高発現を示すヒト腫瘍組織の解析からも一致する結果が得られ、HCCの進行を促進させるメカニズムが保存されていることを示唆された。

[出典]
  • 論文 "In Vivo CRISPR Activation Screening Reveals Chromosome 1q Genes VPS72, GBA1, and MRPL9 Drive Hepatocellular Carcinoma"  Cell Mol Gastroenterol Hepatol. 2025-01-04. https://www.cmghjournal.org/article/S2352-345X(25)00001-3/fulltext [著者所属] U Pennsylvania (Dept Medicine, College of Arts & Sciences), Mayo Clinic (Dept Medicine)
  • Editorial “In vivo CRISPR Activation Screening, a Powerful Tool to Discover Oncogenic Driver Genes in Hepatocellular Carcinoma” Gad S, Ye R, Qiu W. Cell Mol Gastroenterol Hepatol. 2025-04-14. https://doi.org/10.1016/j.jcmgh.2024.101459 [著者所属] Loyola U Chicago, Medical Research and Clinical Studies Institute (Egypt)
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