2025-07-11 Nature 冊子版の書誌情報を追記し、ブログタイトルを「スケーラブルなタンパク質工学と機械学習により, デザイナーCRISPR-Cas9 PAMバリアントの生成を可能とするアプリを公開」から「蛋白質工学と機械学習により生成した6,400個のCas9バリアントの評価と, より高活性かつ高精度な編集の実現」へ改訂
2025-04-26 MGHのプレスリリースへのリンクを以下に追記2025-04-24 初稿
[注] 本稿は、論文の概要に加えて、論文の責任著者のBluesky投稿も参照した。
2025-04-26 MGHのプレスリリースへのリンクを以下に追記
"Engineering 'bespoke enzymes': Machine learning expands CRISPR toolbox" Mass General Bringham. 2025-04-23 https://phys.org/news/2025-04-bespoke-enzymes-machine-crispr-toolbox.html
- マサチューセッツ総合病院ブリガム病院の研究者らによる新たな論文は、スケーラブルなタンパク質工学と機械学習を組み合わせることで、遺伝子・細胞治療分野の進歩を加速させる可能性を示している。
- 機械学習アルゴリズムPAMmlaを開発し、約6,400万種類のゲノム編集酵素の特性を予測した。
- PAMmlaは、オフターゲット効果の低減、編集の安全性向上、編集効率の向上、そして研究者が新たな治療標的に合わせてカスタマイズされた酵素を予測することを可能にする可能性がある。
[注] 本稿は、論文の概要に加えて、論文の責任著者のBluesky投稿も参照した。
タンパク質のエンジニアリングと特性評価は時間と労力を要する。これまでに、PAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)の制限を緩和するなどして、SpCas9をベースに多様なゲノム編集アプリケーションを可能にする汎用化が試みられてきた [*1–4]。しかし、このような汎用化にあたっては、オフターゲット編集のリスクが高まる問題などに対処する必要があった [*3,5,6]。
MGH & HMSのBenjamin P. Kleinstiverが率いる研究チームは今回、Cas9のスケーラブルなリプログラミングを可能にするため、ハイスループット・タンパク質エンジニアリングと機械学習(ML)を組み合わせ、特定のターゲットにより適したカスタムエディターを導出した。
構造/機能情報に基づく飽和変異誘発と細菌選抜により、約1,000個のエンジニアリングされたSpCas9を取得し、それらのPAMの特性を評価し、アミノ酸配列とPAM特異性を関連付けるニューラルネットワークをトレーニングした。
こうして得られたPAM MLアルゴリズム(PAM ML algorithm: PAMmla)を利用して6,400万個のSpCas9バリアントのPAMを予測することで、ヒト細胞において、ヌクレアーゼおよび塩基エディターの酵素として、進化型および工学的に改変されたSpCas9よりも優れた有効性と特異性を持つバリアントを特定することに成功した。
こうして、in silico 指向進化法を介して、ヒト細胞およびマウスにおいて、網膜色素変性症に関与するRHO P23Hアレルのアレル選択的ターゲティングを含むユーザー指向のCas9バリアントの設計が実現され、また、PAMmlaはMLとタンパク質工学を統合することで、明確なPAM要件を持つSpCas9バリアントのカタログが整備された。
本研究は、汎用的なCas9バリアントではなく、効率的でオフターゲット活性が抑制された安全なデザイナーCas9の生成と応用を促進する道を開いた。
[*] 引用論文紹介crisp_bio記事
- 2018-08-31 SpCas9-NG:SpCas9の標的範囲をさらに広げる合理的な変異導入 (Engineered CRISPR-Cas9 nuclease with expanded targeting space)
- 2018-03-02 xCas9:PAMの拡張とオフターゲット抑制を両立 (Evolved Cas9 variants with broad PAM compatibility and high DNA specificity)
- 2020-03-27 ヒトゲノムのほぼ全域をCas9で標的可能になった - PAMの呪縛を解いたSpGとSpRY (Unconstrained genome targeting with near-PAMless engineered CRISPR-Cas9 variants)
- 2020-02-13 Liuグループ、グアニン (G)を含まない配列をPAMとするSpCas9変異体をファージによる指向性進化法で実現 (Continuous evolution of SpCas9 variants compatible with non-G PAMs)
- 2021-06-25 PEM-seqを介してCas9改変体のPAM適合性と編集活性を深掘り (In-depth assessment of the PAM compatibility and editing activities of Cas9variants)
- 2024-05-05 SpRY-Cas9がPAMレスである仕組み - Cas9およびSpGとの比較 (Unraveling the mechanisms of PAMless DNA interrogation by SpRY Cas9)
[出典] "Custom CRISPR—Cas9 PAM variants via scalable engineering and machine learning" Silverstein RA, Kim N, Kroell A-S, Walton RT [..] Kleinstiver BP. Nature 643, 539–550 (July, 2025) (2025-04-22). https://doi.org/10.1038/s41586-025-09021-y [著者所属] Harvard Medical School, Massachusetts General Hospital, Massachusetts General Hospital Charlestown, Massachusetts Eye and Ear, Broad Institute of Harvard and MIT, St. Jude Children’s Research Hospital, NIAID/NIH, Heidelberg U, Laboratory of Protein Design and Immunoengineering (École Polytechnique Fédérale de Lausanne and Swiss Institute of Bioinformatics), CELLSCRIPTTM
[詳細] Benjamin P. KleinstiverのBleusky投稿
Protein engineering workflows can result in generalist enzymes due to limitations in scale or a lack of assays to characterize enzymes. While generalist enzymes can be useful for research, designer enzymes may be better fit for therapeutics with advantages in safety & efficacy.
— Ben Kleinstiver (@bkleinstiver.bsky.social) 2025年4月23日 5:57
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タンパク質工学のワークフローでは、規模の制限や酵素の特性評価に必要なアッセイの欠如により、汎用酵素が開発されることがある。汎用酵素は研究には有用だが、有効性と安全性に優れたデザイナー酵素は、治療薬としてより適している可能性がある。
我々は、単純な課題を設定した:実験アッセイを最適化して、十分な量の Cas9 タンパク質を識別し、詳細に特徴付け、機械学習を利用して、トレーニング データには含まれていない残りの数百万の酵素の特性を予測できるようにすることはできるだろうか。
はじめに、Cas9の6アミノ酸残基に飽和変異を導入し、この酵素ライブラリを用いて(異なるPAMに対する)大規模選択実験を実施した。その後、スケーラブルなアッセイHT-PAMDA
を用いて約800個のCas9タンパク質の配列決定と特性解析を行なった。
選択の結果、2つの主要な表現型が得られた。1つは「NGG」配列を標的とする酵素(野生型SpCas9に類似)、もう1つは「NGN」PAMを緩和した酵素(これまでに開発された汎用酵素に類似)である。しかし、このデータセットには、より希少なCas9酵素がいくつか隠されていた。
その後、機械学習を用いて、希少酵素を含むすべてのタンパク質を調査し、PAM機械学習アルゴリズム(PAMmla)をトレーニングした。このアルゴリズムを利用することで、これらの6つのアミノ酸が異なる6,400万個のCas9タンパク質すべてにおけるPAM要件を予測することに成功した。
PAMmla が、これまでトレーニングに利用したデータセットさらに自然界では見られなかった Cas9酵素の PAM プロファイルと、以前に設計された SpCas9 PAM バリアント酵素 (当社または他社が開発) の PAM プロファイルを正確に予測できることも、確認された。
PAMmla予測酵素はPAMに対してより選択的であるため、ゲノム上でオフターゲット部位に遭遇うするリスクが低減され、望ましくないオフターゲット編集が最小限に抑制され、より安全な酵素が得られる。
さらに、NIAID/NIHのSuk See De Ravin博士との共同研究により、PAMmla酵素は塩基エディターのベースとして非常に有効であり、患者由来の初代培養細胞における変異を修正すると同時に、オフターゲットを最小限に抑えることができることが実証された。
こうして今や、SpGのようなPAMの制限を緩和した酵素を使用する必要はない。より特異性の高いPAMmlaタンパク質が取って代わる時が来た。
筆頭著者のRachel A. Silversteinは、ユーザーが独自のCas9酵素を予測できるように、in silico指向進化のパイプラインを開発し、
HMSのLuca Pinello研究室と協力して、新規Cas9をリアルタイムで予測・操作できるウェブサイト [https://pammla.streamlit.app/] を構築した [右図スクリーンキャプチャ参照]
HMSのLuca Pinello研究室と協力して、新規Cas9をリアルタイムで予測・操作できるウェブサイト [https://pammla.streamlit.app/] を構築した [右図スクリーンキャプチャ参照] その後、Massachusetts Eye and EarのQin Liuらと協力し、PAMmla を利用して、失明の原因となる変異を治療するための対立遺伝子選択的デザーなーCas9バリアントを開発した。ここで注目すべきは、このCas9バリアンとは、塩基"c"
を識別できるようになったことである。これは、ゲノム編集の安全性と有効性を向上させる可能性のあるPAMmla予測酵素の、数多くの応用例のほんの一部である。
この膨大なデザイナーCas9タンパク質ツールボックスが、特に遺伝子治療における利点を踏まえ、ユーザーがより多くのカスタムツールを導入するきっかけとなることを願っている。さらに言えば、このフレームワークは、Cas9の他のプロパティ、他の CRISPR-Cas または非 CRISPR 酵素、または次世代エディターの他のタンパク質ドメインに対する ML の使用を含め、エディター ツールボックスを充実させるために拡張可能である。
ラボを立ち上げた当初は「空想 (pie in the sky) 」のような目標であったが、瞬く間に5年にわたる大規模な共同研究へと発展し、膨大なアッセイ開発が必要となった。このプロジェクトを可能にしてくれたNIH Director's New Innovator Awards (DP2)に深く感謝する。🙏
このような科学は、先見性のある資金提供にかかっている。✊
Happy editing!🧬
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