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 スエーデンのカロリンスカ研究所と英国のカーディフ大学を主とする研究チームが、地理的に独立した両国のCOVID-19患者グループ(のべ265人)に由来する血漿サンプルのプロテオーム解析と、フローサイトメトリーによる免疫学的分析を行ない、ロングCOVIDにおける呼吸器疾患の診断と治療に有用なバイオマーカー(タンパク質)を特定した。

[詳細]

 対象とされた2つのコホートは、健康な回復期の個人とロングCOVIDの個人を含み、全員がパンデミック初期、まだワクチンが利用可能ではなかった時期にCOVID-19に感染していた。

 免疫系の細胞系譜の構成およびウイルス特異的CD4+およびCD8+ T細胞免疫には、患者間の差異はほとんど見られなかった。

 一方で、SARS-CoV-2スパイク特異的中和抗体の力価には差があり、健康な回復期患者の力価はロングCOVID患者より有意に高かった。

 また、ロングCOVID患者のSARS-CoV-2非スパイク特異的CD8+ T細胞において、共抑制性受容体(特に、PD-1およびTIM-3)が相対的に過剰発現していた。さらに、ロングCOVID患者の呼吸困難の臨床症状と直接相関する血漿プロテオーム中の一連の可溶性バイオマーカーのユニークな配列(シグネチャー)が検出された。

 ネットワークおよびパスウェイ解析により、これらのバイオマーカー・シグネチャがアポトーシスおよび炎症と関連付けられ、セラミド、FAS、NF-κB、TNF が関与するシグナル伝達カスケードが重要な役割を担っていることが明らかになった。

 さらに、CCL3、CD40、IL-18などのコアネットワーク構成要素が、ロングCOVID-19患者の持続性炎症の潜在的な原因として特定された。

 これらの知見は、SARS-CoV-2感染によって引き起こされる進行中の症候性疾患の複雑な病因と病態形成を解明する手がかりとなる。

[注] 米国では「パンデミックは終了した。HHS (米国保健福祉省)は存在しないものに納税者からの数十億ドルを浪費することはしない」として、COVID-19対策予算 (COVID-19についてはもとより、ロングCOVID-19についても) がカットされたと報道されている [CNN 2025-03-26

[出典] 
論文 "Identification of soluble biomarkers that associate with distinct manifestations of long COVID" Gao Y, Cai C, Adamo S [..] Buggert M, Price DA. Nat Immunol. 2025-04-30. https://doi.org/10.1038/s41590-025-02135-5 [著者所属] Karolinska Institutet (Sweden), Karolinska University Hospital, Uppsala U, U & U Hospital Basel (Switzerland), Cardiff University School of Medicine (UK), University Hospital Llandough, U Alabama at Birmingham (USA), UCSF.
ニュース "Long COVID biomarkers found – associated with respiratory problems" Karolinska Institutet. 20205-04-30. https://news.ki.se/long-covid-biomarkers-found-associated-with-respiratory-problems]

[関連ニュース記事と論文]

1. ロングCOVIDにおける呼吸器疾患と免疫環境の相互作用の解明

 ヒトの免疫システムは、SARS-CoV-2などの急性感染症から身を守る上で極めて重要ある。ロングCOVID患者の多くの持続的な症状の根底には、SARS-CoV-2感染後の長期的な免疫システムの調節不全がある。

[出典] News & Views "Unravelling the interplay between respiratory disease and the immune landscape in long COVID" Harker JA, Thwaites RS. Nat Immunol. 2025-04-30. https://doi.org/10.1038/s41590-025-02140-8

2. COVID-19後遺症における活動性肺損傷と進行性疾患の免疫学的根拠

 COVID-19後の持続性呼吸困難の原因が多様なことから、肺における後遺症の免疫病理学の解明が進んでこなかった。バージニア・スクール・オブ・メディスン大学を主とする米国の研究チームが今回、個別の肺表現型の観点から数百の細胞および分子の特徴を分析し、COVID後の肺疾患の全身免疫の状況を定義した。

 続いて、肺生理学的指標のクラスター分析から、拡散障害と線維化の重症度に応じて異なる拘束性肺疾患*の2つの表現型が浮き彫りになった。
[*] 肺の換気障害は閉塞性、拘束性、および混合性に分類されている。拘束性換気障害の病態は、正常な肺活量の80%以下しかない状態が特徴であるが、疾患と原因は多様である [MSDマニュアル プロフェッショナル版/肺機能検査の概要/流量,肺気量,およびフローボリューム曲線 - 異常パターン/拘束性障害]

 さらに、機械学習により、軽症の肺疾患では顕著なCCR5+CD95+CD8+ T細胞が乱れている一方で、重症の肺疾患ではCXCL13の上昇を特徴とするT細胞応答が減弱していること、細胞、メディエーター、自己抗体の明確なセットが各拘束性表現型を区別し実質的な肺病変は無い患者とは異なること、が明らかになった。その上で、こうした違いは、肺疾患の重症度に応じて異なるT細胞ベースの1型ネットワークに紐づけられた。 

[出典] "Distinct type 1 immune networks underlie the severity of restrictive lung disease after COVID-19" Canderan G, Muehling LM, Kadl A, Ladd S [..] Woodfolk JA. Nat Immunol. 2025-03-26. https://doi.org/10.1038/s41590-025-02110-0 [著者所属] U Virginia School of Medicine, U Virginia School of Engineering and Applied Science, Vanderbilt U, Vanderbilt University Medical Center, U Colorado Anschutz Medical Center, Stanford U School of Medicine
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