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 UCSDの研究チームは今回、大腸菌を「生きた試験管 (living test tube)」として利用可能にする LEICA(live Escherichia coli assay)と称する技術を開発した。LEICAでは、大腸菌の主要な酵素の1つをヒトの酵素と置き換え、ヒト由来酵素に依存するように改変された大腸菌の増殖速度を測定する。研究チームは、この増殖速度に、置き換えたヒト酵素の機能レベルが正確に反映されることを示した。ヒト化大腸菌すなわち、望ましくない変異を帯びたヒト酵素に起き変えられた場合は、増殖速度が抑制されあるいは増殖しなくなる [Fig. 1引用右図 a 参照]。こうして、「ヒト化大腸菌」を利用して、ヒト酵素のバリアントの評価や、候補薬剤の効果を判定可能なことを示した。

[詳細]

 研究チームは、大腸菌の遺伝子と他のバクテリア、アーケア、ヒトにわたる遺伝子を交換する先行研究 [Nat Ecol Evol, 2020] において、大腸菌の解糖系遺伝子をヒトの相同遺伝子に置換可能なことを実証していた。細菌とヒトは進化的に遠いにもかかわらず、代謝において門を超えて普遍的な解糖系構造を共有している。この構造では、グルコースは異なる酵素を用いているものの、同一の化学反応によって代謝される。したがって、グルコース代謝に重要な天然酵素を欠損する大腸菌は、対応するヒト酵素を導入することで、コード配列を変更することなくグルコースを利用できる可能性がある。この知見をベースに研究チームは、ヒト変異酵素の活性を調べるためのアプローチとしてLEICAを開発し、検証した。具体的には、最も一般的なヒト遺伝性酵素疾患に関連するグルコース-6-リン酸イソメラーゼ(GPI)とグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PD)を取り上げた。

 大腸菌の増殖速度は、解糖フラックスに依存するため、異種発現したヒト酵素の活性の代替指標として機能する。大腸菌の遺伝子操作の容易さから、これらの酵素におけるヒト変異は問題なく再現され、異なる変異体を持つ大腸菌株はそれぞれ異なる増殖速度を示し、変異によって誘発される酵素活性の変動を反映することが確認された。ここで重要なことは、増殖速度が、組み換えタンパク質アッセイで測定した酵素活性と高い線形相関を示したことである。

 また、LEICA をアルギニノコハク酸リアーゼ (ASL) にも適用した。ASL は尿素回路の主要酵素であり、その欠損はアルギニノコハク酸尿症を引き起こす。 ASLを欠損する大腸菌におけるアルギニン要求性をヒト由来酵素で補完できたことから、LEICAは、多様な酵素に幅広く適用可能なことが、示唆された。

 こうして、LEICAは、ヒトの変異に起因する酵素活性の変化を正確かつ迅速にスクリーニングに利用可能であり、遺伝子変異に起因する遺伝性疾患の因果関係に関する知見をもたらすことが示された。

 さらに、LEICAを用いた低分子化合物の実験において、ヒトG6PDを標的とする化合物を直接投与すると、増殖が促進または阻害されることを発見し、既知のG6PD阻害剤の阻害効果を確認することができた。そこで、160種類のヒト代謝調節剤のライブラリーをスクリーニングしたところ、7つのリード化合物が発見された。その中にはG6PD阻害効果または抗マラリア活性を有する既知の化合物3つの再発見も含まれていた。最後に、G6PD-Canton変異体を有する大腸菌を、最近発見されたG6PDアゴニストAG1 [ChemMedChem, 2019] で処理したところ、増殖が促進されることが観察された。

 こうして、LEICAは薬物スクリーニングプラットフォームとして利用可能なことに加えて、個別化医療の開発にも活用できることが示唆された。

[出典] 
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