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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

 抗マラリア薬に対する広範な耐性の蔓延は深刻な問題である。これに対して、原虫の発育に不可欠な宿主タンパク質に焦点を当てたアプローチが、模索されている。その中で、メロゾイトの侵入という極めて重要な過程において、原虫の赤血球内サイクルの開始と継続の両方に重要な役割を果たす赤血球タンパク質が重要な標的の一つとされている。

 これまでに、内因性赤血球プロテアーゼが原虫の発育において重要であることが認識されたが、マラリア原虫が感染赤血球から脱出するのを促進する宿主プロテアーゼとして知られているのは、唯一、カルシウム依存性システインプロテアーゼであるカルパイン1(Calpain 1)に留まっており、他の潜在的なエフェクタープロテアーゼのさらなる研究が必要とされている。
 
 有望な候補の一つが、ケル(Kell)血液型抗原である。ケル抗原は、寄生虫の侵入において機能的な意義を持つ赤血球タンパク質である。インドを主とする研究チームが今回、遺伝学的、細胞学的、生化学的手法を駆使した統合的アプローチにより、熱帯熱マラリア原虫の侵入におけるケル抗原の機能的役割を解明した。
  • 赤血球前駆細胞BEL-AからKell遺伝子を欠損した赤血球を作製することで、熱帯熱マラリア原虫の侵入におけるKell活性の不可欠な性質を実証した。
  • 亜鉛エンドペプチダーゼファミリーとコンセンサス配列を共有する単孔膜タンパク質Kellの細胞外ドメインが、原虫の宿主赤血球への侵入に不可欠な細胞外酵素活性を有することを明らかにした。
  • ナノモル濃度のチオルファン(亜鉛メタロプロテアーゼ阻害剤)によって、Kellのプロテ​​アーゼ活性の阻害を介して、in vitroおよびin vivoの両方で原虫の侵入が著しく減少した。
  • マウスモデルでは、チオルファン投与により原虫血症が顕著に減少し、生存率が向上したことから、その治療効果が示唆された。
  • さらに、ex vivo感受性試験により、野外分離株においてチオルファンの強力な抗マラリア活性が実証された。
  • 興味深いことに、マラリア流行地域の個体ではKellの発現と活性が低いことが示されており、これはマラリア原虫による進化圧が働いている可能性を示唆している。
 本研究はマラリア原虫の侵入におけるケル抗原の重要な役割を明らかにし、宿主指向性抗マラリア療法の新たな標的となる可能性、特に、流行地域におけるマラリア対策のための化学療法とワクチンを統合したアプローチの新たな可能性、を示唆している。

[出典] "CRISPR/Cas9-engineering of Kell null erythrocytes to unveil host targeted irresistible antimalarial" Kumari G, Gupta P [..] Ramalingam S, Singh S. Commun Biol. 2025-05-11. https://doi.org/10.1038/s42003-025-07968-2 [著者所属] Jawaharlal Nehru U, CSIR- Institute of Genomics and Integrative Biology, Academy of Scientific and Innovative Research (AcSIR), Agartala Government Medical college, CMR-Regional Medical Research Centre, Model Rural Health Research Unit (MRHRU), New York Blood Center, Medicines for Malaria Venture (Geneva)
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