crisp_bio

論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

 循環型炭素経済には、C1プラットフォーム原料の多様化と付加価値製品(エタノール、アセトン、イソプロパノールなど)への改良が重要である。好熱性酢酸菌Thermoanaerobacter kivui は、高温下でもCO2、CO、H2を燃料として急速に増殖し、高いエネルギー効率を示すことから、循環型炭素経済に向けたバイオテクノロジー産業にとって魅力的な宿主となる可能性がある。しかし、T. kivui に適用可能なゲノム編集ツールにはこれまで、速度と効率の点で限界があった。

 ウイーン工科大学の研究チームが今回、HI-TARGETT. kivui に内在するタイプI-B CRISPRシステムに基づき、汎用性の高いゲノム編集ツール"Hi-TARGET"を開発した [Fig. 1引用右図参照]。 
  • Hi-TARGETは、遺伝子ノックアウト(精製プラスミドおよびクローニング混合物の両方から)およびノックインで100%の効率、点突然変異の作成で49%の効率を実現した。
  • 形質転換およびプレーティング・プロトコルを最適化し、形質転換効率を245倍の1.96 × 104 ± 8.7 × 103 CFU/μgに増加させた。
  • 続いて、Hi-TARGETを使用して、遺伝子ノックアウト(pyrErexAhrcA)、ノックイン(ldh::pFAST)、PolCC629Yに対応する1ヌクレオチド変異、および蛍光タンパク質pFASTのノックダウンを実証した。
  • Hi-TARGETで作成された∆rexA欠失変異体の解析により、転写抑制因子rexAが乳酸脱水素酵素(ldh)の発現の調節に関与している可能性が高いことが明らかになった。
  • ゲノムエンジニアリングに続いて、編集された株のキュア手順を考案した。 DNAからクリーンな編集株を作成するの期間は12日間である。
 T. kivui 用に開発されたCRISPRベースのゲノム編集ツールHi-TARGETは、スカーレスな欠失、挿入、点突然変異誘導、および遺伝子ノックダウンを可能にし、炭素排出量がマイナスの化学物質や燃料の製造に有用な産業用株の迅速な作成を可能にするとともに、酢酸生成物質の代謝と生理学に関する研究を促進する。

[出典] "Hi-TARGET: a fast, efficient and versatile CRISPR type I-B genome editing tool for the thermophilic acetogen Thermoanaerobacter kivui " Sitara A [..] Pflügl S. Biotechnol. Biofuels Bioprod. 2025-04-30. https://doi.org/10.1186/s13068-025-02647-0 [著者所属] Technische Universität Wien
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