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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

 CRISPR-Cas12aシステムは、crRNA誘導によるトランス切断活性(コラテラル活性)により、迅速で高感度な核酸診断ツール開発のベースとして利用されている。この利用にあたっては、多様な標的部位における活性を正確に予測することが求められるが、その予測は依然として課題となっている。中国の研究チームはこの課題に対して、分子動力学シミュレーションとニューラルネットワークモデリングを組み合わせてトランス切断活性を予測する新しいアプローチを提示する。

[詳細]

 Cas12aやCas13aのガイドRNAになるcrRNAのin silicoでの活性予測については、ADAPT [*1] EasyDesign [*2] といったディープラーニングをベースとするツールで進展が見られた。しかし、これらのツールは塩基配列と酵素活性の関連性を確立しただけで、トランス切断活性と強く関連するCRISPR-Casシステムにおける分子相互作用機構を考慮していないため、予測性能が限られていた。

 Cas12a S!ここで、CRISPR-Cas12aのトランス切断活性のプロセスを振り返ってみよう。CRISPR-Cas12a分子相互作用は、主に4つのステップで構成されている. [Figure S1引用右図参照]:
  1. Cas12aのWEDドメインとPIドメインによるプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の認識により、二本鎖DNA(dsDNA)標的の巻き戻しが促進される。 
  2. crRNAと標的DNAのハイブリダイゼーションにより Cas12a の REC ローブの構造変化が誘発され、Cas12a の RuvC ドメインが活性化される。
  3. 標的DNAのシス切断が進行し、PAM遠位においてdsDNAが放出される。
  4. RuvC ドメインでの非特異的一本鎖 DNA (ssDNA) のトランス切断が進行する。
 したがって、先行する Cas12a/crRNA-DNA 複合体の分子間および分子内相互作用 (ステップ 1~3) が、後続の非特異的 ssDNA 基質の結合および切断効率 (ステップ 4) に直接影響を及ぼし得ると推測される。

 たとえば、標的DNA内のPAMはCas12aのPIドメインと相互作用する可能性があり (ステップ 1)、異なるPAM配列はCas12aのシス切断とCas12aトランス切断の活性に、それぞれ、影響する。さらに、crRNA-DNAターゲットの初期状態から近似ハイブリダイゼーション状態 (ステップ 2) への自由エネルギー変化は、Cas12aのトランス切断活性を制御する重要な要因とされている。しかし、Cas12a/crRNAと標的DNA(PAM末端側のdsDNAが遊離した後のステップ3からステップ4)間のより深い分子相互作用特性については、これまで調べられていなかった。そのため、ステップ3からステップ4までのこれらの分子相互作用特性をさらに解析することで、異なる配列によって引き起こされるCas12aの切断活性の違いの理由を効果的に説明できる可能性がある。

 現在、CRISPR分子相互作用機構の解析にあたって、分子動力学(MD)シミュレーション技術がますます利用されている。例えば、MDシミュレーションを用いてCas9/gRNA-DNA複合体の結合自由エネルギーを測定することで、CRISPR-Cas9のオフターゲット効率を予測するCRISOTというツールが開発され、他のオフターゲットスコアリング法よりも高い予測性能を示した(p < 0.05)[*3]。 さらに、MDシミュレーション技術を用いて、二乗平均平方根偏差(RMSF)とトラジェクトリを測定することで、DNA結合がコンフォメーション変化を引き起こし、Cas12aを活性化するスイッチ(上記、ステップ2)を誘導する可能性があることが示された[*4]。 MDシミュレーションでは、Cas12aのRuvCドメインに位置するαヘリカルリッドが、結合自由エネルギー変化プロファイルを計算することで、DNAの標的鎖(TS)を触媒へと誘導できることも明らかにされた(ステップ3)[ *5]

 研究チームはこうした知見から、MDシミュレーション技術を用いてRMSFや自由エネルギー変化(ステップ3からステップ4まで)といった分子相互作用特性を計算することで、塩基対の種類や位置によるCas12aのトランス切断活性の違いをより深く理解できると、想定した。

 より深い分子相互作用メカニズムを解明するために、様々なCas12a/crRNA-DNA複合体(ステップ3~4、PAM-遠位dsDNAなし)のMDシミュレーションを実施し、DNAの広範な分子相互作用の特性をマップした。その上で、Cas12aのトランス切断活性を正確に予測するニューラルネットワークモデル(ActivityNN)を開発した。特に、MD計算リソースと計算時間を削減するため、3分未満で相互作用特性を計算する効率的なモデル(IntermediateNN)も考案した。さらに重要な点として、ActivityNNの特性重要度を分析することで、Cas12aのトランス切断活性に影響を与える主要な配列特性を特定した。

 開発したモデルを使用して、代表的なdsDNAウイルスと細菌の23,456以上の特徴配列をターゲットとしたcrRNA-DNAライブラリを作成し、参照微生物からcrRNAをスクリーニングして実験テストを実行し、開発したモデルがCas12aトランス切断活性を予測し、crRNAの可用性を高める上で優れた性能を発揮することを確認した (予測精度:ビアソン係数r=0.9328) 。

 この研究は、Cas12a/crRNA-DNA の分子間相互作用に関する新たな知見を提供し、crRNA 設計を最適化するための信頼性の高いフレームワークを提供し、迅速な核酸診断における CRISPR-Cas12a の応用を促進する。

[出典] "Facilitating crRNA Design by Integrating DNA Interaction Features of CRISPR-Cas12a System" Yao Z [..] Wu Q, Wang L, Nie Y. Adv Sci (Weinh). 2025-05-08. https://advanced.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/advs.202501269
https://doi.org/10.1002/advs.202501269 [著者所属] Jiangnan U, Institute of Agro-product Safety and Nutrition, Key Laboratory of Information Traceability for Agricultural Products.

[*] 引用crisp_bio記事と論文
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