crisp_bio

論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

 アシネトバクター・バウマニ(A. baumannii )は、免疫力の低い入院患者に院内肺炎や人工呼吸器関連肺炎を引き起こしやすい重要なグラム陰性日和見病原体である。一方で、細菌の適応免疫システムであるCRISPR-Casシステムは、細菌の薬剤耐性や毒性にも密接に関連している。しかし、A. baumannii におけるタイプI-Fa CRISPRシステムのcas3 の効果と機構は不明である。
[注] タイプI-Fa CRISPR-Casシステムの構成:CRISPR1-CRISPR2-CRISPR3-CRISPR4-CRISPR5-cas1-cas6-csy3-csy2-cas3 

 中国の研究チームは今回、タイプI-Fa cas3 の細菌毒性に対する制御メカニズムを研究するために、RecETリコンビナーゼを利用してcas3欠失変異体(19606Δcas3)を作出し、次に、その補完株(19606Δcas3/pcas3)を作出した。
  • cas3(タイプI-Fa)の欠失は、バイオフィルム形成、毒性、およびマウスに対する病原性を大幅に低下させた。cas3 欠失株に感染したマウスの臓器細菌量が大幅に減少し、肺の炎症状態が変化し、血清サイトカインレベルも低下した。
  • 機構解析から、cas3の欠損はバイオフィルム形成関連因子や外膜タンパク質A(ompA)などの毒性因子のダウンレギュレーションにつながることが示された。さらに、cas3 A. baumannii の炭素代謝および酸化リン酸化経路の制御にも関与することが明らかになった。
 これらの知見から、cas3A. baumannii 感染症の治療標的になり得ることが示唆される。

[出典] "Cas3 of type I-Fa CRISPR-Cas system upregulates bacterial biofilm formation and virulence in Acinetobacter baumannii " Guo T, Hu J, Li G. Commun Biol. 2025-05-14. https://doi.org/10.1038/s42003-025-08124-6 [著者所属] Yangzhou U, The Fifth People’s Hospital of Suzhou
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