
体性感覚経路は、痛み、触覚、痒み、身体部位の動きに関する重要な情報を皮膚や筋肉などの末梢の臓器から中枢神経系へと伝達する。これらの経路がどのように組み立てられるかを理解した上で、疼痛治療法を開発することが強く求められてきたが、臨床応用には至っていない。その一因はおそらく、ヒト特異的な特徴を備えた多シナプス経路のin vitroモデルの不足にある。スタンフォード大学の Sergiu P. Pașcaが率いる研究チームは今回、ヒト多能性幹細胞から生成された4つの部分からなるアセンブロイドであるヒト上行性体性感覚アッセンブロイド(human ascending somatosensory assembloid: hASA)を樹立し、このhASAが、体性感覚、脊髄、視床、皮質オルガノイドを統合した脊髄視床経路モデルとして機能することを、示した。
- トランスクリプトーム・プロファイリングから、この回路において重要な細胞型の存在が確認された。
- 狂犬病ウイルストレーシングとカルシウムイメージングを介して、感覚ニューロンが脊髄の背側ニューロンに接続しさらに視床ニューロンに接続することが同定された。
- 有害な化学刺激後、hASAのカルシウムイメージングが協調的な反応を示し、さらに、細胞外記録とイメージングにおいて、アッセンブロイド全体で同期した活動が観察された:特に、無痛(insensitibity to pain)を引き起こすナトリウムチャネルNaV1.7の欠損は、hASA全体の同期を阻害し、一方で、CRISPR-Cas9技術を利用してヘテロ接合型SCN9A<T1464I>をノックインした極度の疼痛障害に関連する機能獲得型SCN9A 変異体は、過剰同期(hypersynchrony )を引き起こした。
これらの実験は、アッセンブロイド・モデルにおいて、ヒトの感覚経路に不可欠な構成要素を機能的に組み立てられたことを実証し、アッセンブロイド・モデルによって、感覚回路の理解を加速し、治療法の開発が促進される可能性を示した。
[注] Nature News記事では、ハーバード大学とブロード研究所の研究チームによるキメロイド (chimeroids)[Nature, 2024]とアッセンブロイドの比較もされている。
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[出典]
- NEWS "Brain tissues, assemble! Inside the push to build better brain models" Dolgin E. Nature. 2025-05-14. https://doi.org/10.1038/d41586-025-01468-3
- 論文 "Human assembloid model of the ascending neural sensory pathway" Kim Ji, Imaizumi K, Jurjuț O, Kelley KW, Wang D, Thete MV, Hudacova Z, Amin ND, Levy RJ, Scherrer G, Pașca SP. Nature 2025-04-09. https://doi.org/10.1038/s41586-025-08808-3 [著者所属] Stanford U (Dept Psychiatry and Behavioral Sciences, Stanford Brain Organogenesis Program, Dept Neurology & Neurological Sciences) U North Carolina (Dept Cell Biology and Physiology).
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