Arc InsituteのSilvana Konermannと Patrick D. Hsuが率いる研究チームは、IS110挿入配列エレメントに由来し、天然に存在するRNA誘導性DNAリコンビナーゼの一種であるブリッジ・リコンビナーゼを発見し、in vitroおよび細菌において、プログラム的にDNAを挿入、切除、反転できることを実証していた [*]。今回、ヒトゲノムの普遍的なDNA再編成が可能なシンプルな2成分系システムであるIS622の発見と改変について報告している。
[詳細]
IS110挿入配列エレメントに由来するブリッジ・リコンビナーゼは、ブリッジRNA (bRNA)を用いて標的DNAとドナーDNAを認識する。bRNAは双方の基質に対してプログラム可能な特異性を付与し、DNAの挿入、反転、および切除を可能にする。対照的に、CAST (CRISPR関連トランスポザーゼ)は、ガイドRNAを介して標的DNAを認識するが、遺伝子挿入に限定される固定されたDNAドナー配列を必要とする。
ブリッジリコンビナーゼIS621の構造研究により [下図モデル図参照]、
2つのリコンビナーゼ二量体が両方のbRNAループに別々に結合し、その後相同DNAに結合して四量体シナプス複合体を形成することが明らかになった。DNAとリコンビナーゼの間に共有結合が形成された後に鎖交換が起こり、ホリデイジャンクション中間体が生成され、これが分解されて最終的な組換え産物が得られる。

先行研究では、ブリッジ・リコンビナーゼを原核生物ゲノムのプログラム可能な改変に用いる概念実証を示した。本研究では、ヒト細胞で高い活性を示すブリッジ・リコンビナーゼIS622を発見し、その活性を向上させた。
点変異とスキャフォールドの改変を介したbRNAの合理的な改変により、その活性を高めた。これらの強化型 (enhanced) bRNAを用いることでヒトゲノムへの挿入特異性を最大化する設計原理を発見し、82%という高い特異性を達成した。
IS622の活性をさらに高めるため、ヒト細胞内で直接リコンビナーゼのdeep mutational scanを実施した。最終的に、合理的に設計された高活性リコンビナーゼ変異体と強化型bRNAを組み合わせることで、ヒトゲノムへの挿入効率を最大20%まで向上させた。
遺伝子挿入以外にも、IS622はプログラム可能で正確かつスカーレスなゲノム再編成に使用し、最大0.93 Mbの逆位と最大0.13 Mbの切除を明らかな距離依存性なしに実現した。
最後に、鎌状赤血球貧血のBCL11Aエンハンサーとフリードライヒ運動失調症に見られる反復配列を切除し、治療法としての概念実証に成功した。
[出典] "Megabase-scale human genome rearrangement with programmable bridge recombinases" Perry NT [..] Konermann S, Hsu PD. bioRxiv 2025-05-14 (preprint). https://doi.org/10.1101/2025.05.14.653916 [著者所属] Arc Institute, UC Berkeley, UC Berkeley - UCSF Graduate Program in Bioengineering, 東大, 稲森財団, Stanford U School of Medicine
[*] ブリッジ・リコンビナーゼ関連crisp_bio記事
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