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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

1. グラスファイバー上のCRISPR-Cas12a免疫センシングを介して変形性関節症の多重な炎症バイオマーカーのポイントオブケア定量化を実現

 ポイントオブケア(POC)におけるサイトカインおよび炎症因子の検出による炎症定量化は、疾患の管理と予防に不可欠である。変形性関節症(osteoarthritis: OA)の場合、X線画像所見が明らかになる前の早期段階で炎症を定量化できれば、正確な診断と効果的な治療の機会が得られ、関節変性の予防につながる可能性がある。

 香港中文大學を主とする中国にオーストラリアが加わった研究チームは今回、携帯型蛍光検出デバイスを用いて複数の炎症バイオマーカーを同時検出するための、CRISPR-Cas12aベースの免疫センサーを搭載したガラスファイバーベースの汎用システム(a glass-fiber-based universal system with CRISPR-Cas12a-based immunosensors: GUSCI)を開発した。 

 GUSCIは、10μLのサンプルで5種類の炎症バイオマーカー(インターロイキン-4 [IL-4]、IL-6、腫瘍壊死因子α [TNF-α]、インターフェロンγ [IFN-γ]、マトリックスメタロプロテアーゼ3 [MMP-3])をピコモルレベルの感度で検出可能である。また、75分未満のアッセイ時間とスマートフォンでの信号読み取りが可能である。

 GUSCIを利用することで、OA患者の滑膜サンプル35件を対象としたコホート研究では、炎症レベルの違いが明らかになった。この「サンプルイン、アンサーアウト」プラットフォームは、OAの進行を理解するのに役立つだけでなく、リソースが限られた環境における幅広い疾患のポイントオブケア診断のための多用途な戦略を提供する。

[GUSCIの構成]
GUSCIは3つの主要コンポーネントで構成されている [Figure 1参照]
(1)ガリウムインジウム共晶(EGaIn)ナノ粒子で修飾されたグラスファイバーセンサー
(2)CRISPR-Cas12a反応用のシリコーンの一種であるポリジメチルシロキサン(PDMS)検出チップ
(3)加熱およびワイヤレスイメージングモジュールを備えたポータブル検出デバイス
 EGaInナノ粒子をp-アミノ安息香酸(PABA)で修飾してEGaIn-PABAナノ粒子を作成し、次に、捕捉抗体を固定化するために末端カルボン酸基でグラスファイバー表面に修飾する。捕捉抗体修飾ガラスファイバーを検体溶液中でインキュベートした後、ファイバー表面をssDNAで標識した検出抗体でインキュベートし、携帯型検出装置の検出チップ内でCRISPR-Cas12a反応を誘発する。この携帯型検出装置は、GUSCI内の複数のバイオマーカーに対応する蛍光シグナルを測定するように設計されている。さらに、カスタマイズされたスマートフォンアプリが、装置内蔵カメラで撮影した画像を正確に処理し、視覚化された結果を数値形式で提示する。

[出典] "CRISPR-Cas12a immunosensing on glass fiber for point-of-care quantification of multiple inflammation biomarkers in osteoarthritis" Zou S, Li J [..] Tian K, Liu G. Device. 2024-05-17. https://doi.org/10.1016/j.device.2024.100319 [著者所属] 香港中文大學, 大連医科大学附属第一医院, Key Laboratory of Molecular Mechanisms for Repair and Remodeling of Orthopedic Diseases (大連), U New South Wales

2. 多様なバイオマーカー検出に適応可能なガラスファイバーインターフェース型CRISPR/Cas12aバイオセンシング

 多様なバイオマーカーを検出するための汎用性の高い高感度プラットフォームの開発は、疾患状態の包括的な理解と精密医療の実現に不可欠である。香港中文大學を主とする中国の研究チームは今回、グラスファイバーインターフェース型CRISPR/Casとユニバーサル試薬設定(glass-fiber interfaced CRISPR/Cas12a with a universal reagent setting: g-CURS)に基づく汎用プラットフォームを開発した [グラフィカルアブストラクト参照]。

 g-CURSは、固定されたCRISPR RNA(crRNA)と一本鎖DNA(ssDNA)活性化因子のペアを用いることで、複数の核酸またはタンパク質を超高感度で検出することを可能にしている。固定されたssDNA活性化因子は、グラスファイバー上に結合した複数の特異的ライゲーション産物または検出抗体に標識され、環状レポーター( circular reporters: CRs)を介して、CRISPR/Cas12aの切断活性による迅速かつ指数関数的なカスケード増幅を開始し、携帯型検出器で読み取り可能な蛍光シグナルを生成する。

 g-CURSによって、ウイルス核酸を30分以内にアトモルレベルの感度で、パーキンソン病(PD)血清の細胞外小胞中の複数の低濃度タンパク質を80分以内にピコモル未満の感度で検出することが可能になった。

  g-CURS は、標準的な試薬設定を使用して CRISPR/Cas バイオセンシングを簡素化し、大型の機器を必要としないバイオマーカーの発見を可能にする。

[出典] "Glass fiber-interfaced CRISPR/Cas biosensing adaptable for diverse biomarker detection" Yu T [..] Liu G. Trends Biotechnol. 2025-05-29. https://doi.org/10.1016/j.tibtech.2025.05.001 [著者所属] 香港中文大學, 中山大學がんセンター, 山东大学齐鲁医院
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