SWI/SNF(またはBAF)複合体は必須なATP依存性クロマチンリモデリング因子の一つであり、がんや神経発達障害において頻繁に変異する。これらは多くの場合ヘテロ接合性機能喪失変異であり、SWI/SNFサブユニットの量感受性(dosage-sensitive)を示唆している。しかし、複合体の組み立てを確実にするSWI/SNFサブユニットの用量を制御する分子機構は、ほとんど未解明のままである。
ジュネーブ大学の研究チームは今回、マウス胚性幹細胞(mESC)においてゲノムワイドCRISPRスクリーニングを実施し
[Fig. 1引用右図参照]、発生過程における哺乳類SWI/SNF複合体の新たな制御因子を発見した。

まず、エピゲノム編集ツールを用いて、SWI/SNF依存性の遺伝子発現を再現するレポーターmESC株を設計した [挿入図 a 参照]。次に、ゲノムワイドCRISPR-Cas9ノックアウトスクリーニングを実施し [挿入図 d 参照]、SWI/SNF活性に必須なMlf2 とRbm15 を同定した。
mESCにおいて、これまで十分に解析されていなかったシャペロンタンパク質であるMLF2(骨髄性白血病因子2)が、SWI/SNF標的遺伝子のサブセットを制御することが、確認された。MLF2の急速な枯渇はSWI/SNFクロマチン結合を減少させ、SWI/SNF結合レベルが高い発生エンハンサーにおけるクロマチンアクセシビリティを阻害する。
- N6-メチルアデノシン(m6A)ライター複合体のサブユニットであるRBM15(RNA結合モチーフ15)が、SWI/SNF mRNAの選択的なm6Aメチル化を制御し、SWI/SNFサブユニットの適切なタンパク質レベルと化学量論を確保することが、確認された。m6Aレベルの制御不全は、コアSWI/SNFサブユニットの過剰発現を引き起こし、触媒ATPase/ARPサブユニットを欠いた不完全なSWI/SNF複合体の組み立てにつながる。さらに、RBM15のRNA認識モチーフ1(RRM1)ドメインが、mESCにおけるm6Aライター複合体のmRNAサブセットへの標的化に寄与することが、発見された。
研究チームは、「転写後m6A修飾が特定のSWI/SNF mRNAを制御し、哺乳類SWI/SNF複合体のサブユニット化学量論を維持する」分子機構を提唱する。その中で今回、SWI/SNF 複合体の組み立てを制御する複雑なメカニズムを解読し、SWI/SNF クロマチンリモデリング活性の調整を目的とした治療法の新たな標的として MLF2 と RBM15 を特定した。
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[出典] "CRISPR screen decodes SWI/SNF chromatin remodeling complex assembly" Schwaemmle H [..] Braun SMG. Nat Commun. 2025-05-30. https://doi.org/10.1038/s41467-025-60424-x [著者所属] U Geneva (Dept Genetic Medicine and Development, Institute of Genetics and Genomics in Geneva (iGE3), Proteomics Core Facility)
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