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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

[注] TropD-Detector(Tropical Diseases Detector)

 シャーガス病(アメリカトリパノソーマ病; サシガメ病)は、世界中に分布する人獣共通感染症で、寄生虫Trypanosoma cruzi によって引き起こされ、主に、感染したサシガメの糞便を介して伝播する。新たな症例が出現していることから、効果的な制御戦略を策定し、予防策を確立するためにも、ベクターおよびリザーバーにおける病原体の早期検​​出が必要とされている。

 コロンビアの研究チームは今回、シトクロムB(Cytb )、18Sリボソームサブユニット(SR18s )、およびヒストン(H2A )遺伝子を標的とし、特異的DNA切断、Cas12a活性化およびトランス切断に基づくT. cruzi の検出システムを設計・検証した。
  • TropD-detectorは、寄生虫のベクターおよびリザーバーの双方において検証された。
  • 最初のステップでは、標的遺伝子のバイオインフォマティクス解析を実施し、続いて各切断部位に特異的なRNAガイドと、PCRおよびRPAによって標的領域を増幅するためのプライマーを設計した。
  • 続いて、増幅したDNA標的の配列を決定し、コロンビアのブカラマンガ都市圏で自然感染したサシガメ(Rhodnius pallescens )から抽出したT. cruzi DNAを用いて検出システムを検証した。
  • 手法を標準化した後、CRISPR/Cas9システムをT. cruziの実験室株であるSilvio X10で試験し、自然感染したオポッサム(Didelphis marsupialis )の血液サンプルへとスケールアップした。
 その結果、Cytb を標的とするガイドRNAを用いたCRISPR/Cas9システムによりDNA切断が観察され、PCRで118寄生虫当量/mL、RPA増幅で116寄生虫当量/mLの検出感度が達成された。Cytb 遺伝子の配列決定では、切断部位での変異は非検出であった。ただし、SR18S とH2 A には点変異とインデルが見られ、CRISPR/LbCas12複合体の形成が回避された。

 論文タイトルにあるTropD-Detectorは、Cas12aバイオセンサーに組み込んだ蛍光検出プロトタイプを意味する。この装置は、LEDから放射される480nmの励起波長と、カットオフ波長500nmのハイパス光フィルターで動作し、市販のカメラシステムを介して陽性サンプルを検出可能である。

 TropD-Detectorは、流行地域の媒介生物およびリザーバーの双方において、T. cruzi を視覚的に、かつ生存可能かつ高感度に検出する方法を提供する。

[参考図] 
[出典] "TropD-detector a CRISPR/LbCas12a-based system for rapid screening of Trypanosoma cruzi in Chagas vectors and reservoirs" Ortiz-Rodríguez LA [..] Dugue JE. Sci Rep. 2025-05-31. https://doi.org/10.1038/s41598-025-04017-0 [著者所属] Centro de Investigaciones en Enfermedades Tropicales (Colombia), Universidad Industrial de Santander, Universidad Cooperativa de Colombia UCC
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