レンチウイルスベクター(LV)を介した造血幹・前駆細胞(HSPC)に対する体外遺伝子治療は、いくつかの遺伝性疾患に対する単回治療を実現してきた。しかし、効果的な造血再構成を確実にするために十分な機能的なHSPCを採取、操作、保存する必要があること、細胞注入前の厳しい患者コンディショニングが必要であること、などいくつかの課題により、適用が制限されている。さらに、体外遺伝子治療ではHSPCのみの修正が可能であるが、多くの遺伝性疾患は全身症状を呈しており、より広範な修正が求められる。in vivo (生体内)遺伝子治療はこれらの限界に対する潜在的な解決策であるが、ニッチ内のHSPCを標的とすることは依然として大きな課題である。
イタリアとスペインの研究チームはまず、HSPCへの生体内LV遺伝子導入の実現可能性を評価するため、C57BL/6マウスにおける造血系の時空間的進化を解析した。その結果、出生直後(新生仔マウス)に限って、胎児造血ニッチが持続し、血中への広範な造血幹細胞の輸送が続き、大量の循環HSPC(circulating HSPC: cHSPC)が、肝臓から骨髄(BM)へと移動することを発見した。この現象に、これまでに導出していた生体内投与と標的組織での発現を可能にする改変型LVを組み合わせることで、移植後に長期にわたる多系統出力および生着が可能な真の長期HSPCへの遺伝子導入が実現した。
このアプローチを異なる造血系譜および/または造血外組織が関与するマウスの疾患モデルで検証した結果、いずれも単回治療の可能性が示された:
- アデノシンデアミナーゼ (ADA) 欠損症:毒性アデノシン代謝物の蓄積により重症複合免疫不全症 (ADA-SCID) を引き起こし、T細胞、B細胞およびナチュラルキラー細胞の分化および機能を障害する。
- 常染色体潜性大理石骨病 (ARO):T細胞免疫調節因子1 (TCIRG1) 遺伝子の変異によって引き起こされるヒトの重篤な遺伝性骨疾患で、破骨細胞の機能不全および骨吸収障害につながる。
- ファンコニ貧血:DNA修復不全症候群に分類される希少遺伝性疾患で、ファンコニ貧血経路の変異によって引き起こされ、重度のHSPC減少を引き起こし、骨髄不全やがん感受性の増加につながる。
興味深いことに、生体内遺伝子導入はファンコニ貧血において、修正HSPCに選択的優位性をもたらし、ほぼ完全な造血再建と骨髄不全の予防に繋がった。ヒトにおいても循環HSPCは出生直後に最も豊富であることから、生体内HSPC遺伝子導入は複数の疾患に応用できる大きな可能性を秘めている。
[出典] "In vivo haemopoietic stem cell gene therapy enabled by postnatal trafficking" Milani M [..] Naldini L. Nature 2025-05-28. https://doi.org/10.1038/s41586-025-09070-3 [著者所属] San Raffaele Telethon Institute for Gene Therapy (Italy), U Milano Bicocca, Vita-Salute San Raffaele U, Instituto di Ricerca Genetica e Biomedica, U Siena, U Pavia, Center for Research on Energy-Environment and Technology (Spain) , Biomedical Network Research Center for Rare Diseases; anitary Research Institute Fundación Jiménez Díaz
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