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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

[注] PUFA(Polyunsaturated Fatty Acid / 多価不飽和脂肪酸)

 CRISPR/Casシステムは、その高い柔軟性と効率性から、様々な油脂産生微生物への応用に成功している。しかし、微細藻類の一種であるSchizochytrium limacinum への応用は、適切な遺伝子形質転換システムが欠けていたことから、阻まれてきた。

 中国の研究チームは今回、酢酸塩に基づく選択により新たなアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)媒介スクリーニングシステムを構築し、S. limacinum SR21の形質転換効率を77.13%向上させることに成功した。さらに、内因性Pol IIIプロモーター(tRNAGly)駆動型CRISPR/Cas9発現システムを開発し、S. limacinum SR21において48.38%の編集効率で遺伝子編集を実現した。

 この新たな遺伝子形質転換システムをS. limacinum SR21におけるDHAおよびEPA生産のための代謝工学に適用した。 
  • EPAに対しては、S. limacinum SR21株において不完全な脂肪酸合成酵素(FAS)経路を代謝的に再構成し、FAS経路由来のEPAのde novo合成を実現した。
  • DHAに関しては、「push-pull-block」代謝工学戦略を実施することで、S. limacinum SR21株のポリケチド合成酵素(PKS)経路を強化した。野生株と比較して、改変株の脂質含量は77.14%に増加し、DHAと多価不飽和脂肪酸(PUFA)含量はそれぞれ55.10%と70.47%に上昇した。
 遺伝子組み換えされたSR21-ΔPEX10-ACC1-DGAT株は、発酵のさらなる最適化により、高純度DHAを生産する可能性を秘めている。さらに、FAS経路の異種アセンブリは、将来的にPKSとFASの二重経路によるPUFAの共生産に向けた新たなアプローチを提供する。

[出典] "CRISPR/Cas9-mediated metabolic engineering for enhanced PUFA production in Schizochytrium limacinum " Duan Y [..] Chen G, Li D. Chem Eng J. 2025-05-30. https://doi.org/10.1016/j.cej.2025.164320 [著者所属] Harbin Institute of Technology, Tianjin Institute of Industrial Biotechnology CAS
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