crisp_bio

論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

 触媒活性を失活させたCas9 (dCas9やCas9nベースのBEはCas9ヌクレアーゼに伴うDNA二重鎖切断(DSB)を回避しつつ標的ヌクレオチドを直接変換することを可能にするため、ヒトゲノムに点突然変異を誘発する強力なツールとなり、その臨床応用研究も広がっている。しかし、がんなどの複雑な表現型の根底にある多遺伝子変異の再構築や、合成哺乳類ゲノムの改変などへの応用には、2つの大きな課題が立ち塞がっている:
  • 多重塩基編集(MBE)に必要な単一細胞への複数のgRNAsの導入における技術的制約
  • BEを構成するデアミナーゼがもたらす望ましくないバイスタンダー変異
また、BEを代替するプライム編集(PE)にも、低い編集効率や複雑な構成といった課題がある。

 公開されているBEのほとんどはCas9ニッカーゼ(nCas9)を利用している。しかし、触媒活性を失活させたCas12a(dCas12a)タンパク質を利用したBEも開発されており、nCas9由来のBEシステムと比較して同等かそれ以上の編集頻度を示すことが報告されている [* 1, 2, 3, 4]

 Cas12aはCas9には無い特徴を備えている。補助因子を介さずにgRNAアレイを処理できるため、多重化ゲノム工学への展開が容易であるが [*5, 6]、多重化ゲノム工学の例は、ヒト細胞において最大5つの標的部位を同時にCas12aで塩基編集したという報告のわずか1件にとどまっている。

 イェール大学の研究チームは今回、6つのCas12a由来の塩基編集システムが単一の転写産物から複数のgRNAを処理する能力を検証した Cas12a[Fig. 1引用右下図参照]。
  • 多重塩基編集が可能な塩基エディター・バリアントを同定し、それぞれのgRNAアレイ発現カセットの設計を改良し、LbCas12a由来のBEによって、複数のヒト細胞株において最大15の内因性標的部位を編集することに成功した。
  • さらに、Cas12aが短縮型gRNAを組み合わせた場合に他に類を見ない高いミスマッチ感受性を発揮する特徴を活かして、編集可能ウインドウ内のバイスタンダー変異を抑制し、さらに、このアプローチが前項のアレイベースのgRNA発現と組み合わせて利用できることを実証した。
 こうして、BEの多重化と精度向上に大きな進歩がもたらされ、現在のゲノム工学技術の限界が克服され、ヒト細胞における複雑な遺伝子型のより包括的な研究への道筋が確立された。

[*] 引用crisp_bio記事と論文
[出典] "Precision multiplexed base editing in human cells using Cas12a-derived base editors" Schweitzer AY [..] Isaacs FJ. Nat Commun. 2025-05-31. https://doi.org/10.1038/s41467-025-59653-x [著者所属] Yale U, Yale School of Medicine. 
このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント

コメントフォーム
評価する
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット