Retraction Watchを運営する非営利団体、研究公正センター(Center for Scientific Integrity: CSI)が6月1日に、カリフォルニア州サンフランシスコの資金提供団体Open Philanthropyから90万ドルの資金援助を受けてフェイク医学研究論文を摘発することを目的としたプロジェクト「Medical Evidence Project」を立ち上げた。
このプロジェクトのリーダーである研究公正のコンサルタントであり"data thug"を自称するのJames Heathersは「腐った医学研究ほど人々に差し迫った脅威を与えるものは無い。ヒトの生活の質を損なうフェイク医学研究のエビデンスを見つけ出し、広く一般に公開していく」と言う。このプロジェクトは、メタアナリシス(複数の類似研究の結果を組み合わせて統計的に有意な結論を導き出すレビュー)を歪曲することで、医療ガイドラインに深刻な影響を与える欠陥のある論文を根絶することを目指して、3~5人のチームで2年間実施される。
CSIのこれまでのプロジェクトには、著名な医学レビュー50件を徹底的に調査し、それらの論文の約6%に深刻な懸念があることを発見した [Clin Epidemiol., 2025] 例がある。Heathers氏は、「このような論文が医療政策に影響した事例があることは、恐ろしい」と言う。
例えば、欧州心臓病学会(ESC)が2009年に発表したガイドライン [Eur Heart J., 2009] では、1999年に開始された一連の研究に基づき、非心臓手術中の心臓保護のため、β遮断薬と呼ばれる血圧降下薬の使用を推奨していた。しかし、数年後、これらの研究に対する懸念が提起され、このガイドラインは2013年に「懸念の表明 (expression of concern)」[Eur Heart J., 2013] とともに改訂されたが、2014年の調査では、この研究に関する「確認または疑念払拭」は得られなかった。他の研究者たちは、その年の文献に関する独自の分析 [Heart, 2014] を報告し、このガイドラインの遵守によって英国だけで年間最大1万人の死者が出ている可能性があると、示唆した。
Medical Evidence Projectは、影響力のある医学論文に関する懸念をPubPeerなどの公開プラットフォームに掲載することに抵抗がある、あるいはその方法が効果的ではないと考える告発者のために、安全なプラットフォームを提供したいと考えている。また、Problematic Paper Screenerなどをベースに、独自の目的に合わせてフェイク研究論文の判定ツールを微調整していく。
[出典] NEWS "Science-integrity project will root out bad medical papers ‘and tell everyone" Jones N. Nature. 2025-06-04. https://doi.org/10.1038/d41586-025-01739-z
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