2025-06-09 米国イエローストーン国立公園の温泉水から発見された好熱菌が, 核酸犬再¥技術のゴールデンスタンダードPCR検査に繋がった物語を「未来創造」の観点から取り上げた:
NSFから支援された好奇心駆動型研究から医学生物学に必須のツールが生まれた
1964年、研究室に向かう途中に初めてイエローストーン国立公園に立ち寄ったCetus Corporation社の微生物学者Thomas D. Brock博士は、温泉に生息する微生物の多さに驚き、特に、藍藻に魅了された。水の沸点を超える温度にも耐えられる生物がいるという証拠だったからであり、そして、誰もそのことを知らないようだったからである。
2025-06-08 初稿
- 世界はそれに適応していくだろうが, 米国の科学も産業も沈みゆくであろう
Nature 誌は2023年10月25日号にて"Japanese research is no longer world class — here’s why"と題する記事を刊行した。2025年6月5日、Science 誌は"America is ceding the lead in creating the future"と題する記事をオンライン出版した。
NSFから支援された好奇心駆動型研究から医学生物学に必須のツールが生まれた
1964年、研究室に向かう途中に初めてイエローストーン国立公園に立ち寄ったCetus Corporation社の微生物学者Thomas D. Brock博士は、温泉に生息する微生物の多さに驚き、特に、藍藻に魅了された。水の沸点を超える温度にも耐えられる生物がいるという証拠だったからであり、そして、誰もそのことを知らないようだったからである。
Brock博士はNSFから助成金を獲得し、この公園に生息する微生物の研究を開始した。この研究の目的は、地球上で最も過酷な環境の一つに生息する生物に関する科学的理解を深めることであり、それ以上ではなかった。1966年、Brock博士と学生のHudson Freeze(現在、Sanford Children’s Health Research Center所長)は、70℃以上の水で繁殖する新しい細菌を発見し、Thermus aquaticus と命名した。彼らは、すぐに、細菌の酵素が、水の沸点よりも高い温度でも機能していることに気づいた。しかし、この耐熱性酵素が約50年後、COVID-19との戦いにおいて世界中で果てしなく繰り返されたPCR検査のベースになるとは思いもしなかった。
PCR(polymerase chain reaction)は、1983年に生化学者の Kary B. Mullis博士によって開発された技術である。微量なDNAの検出を可能にしたPCR技術は広く注目を集めた。PCRによって、例えば、ウイルス感染症を診断するために実験室でウイルスを培養するというリスクを伴いかつ数日から数週間かかるプロセスが不要になった。
PCRの特許はCetus Corporationが取得し、後に製薬会社ホフマン・ラ・ロシュに3億ドルで売却され、1989年に耐熱性酵素"Taq DNAポリメラーゼ"がSience誌の「Molecule of the Year」に選出され、1993年、Mullis博士はノーベル化学賞を受賞した。
PCRの特許はCetus Corporationが取得し、後に製薬会社ホフマン・ラ・ロシュに3億ドルで売却され、1989年に耐熱性酵素"Taq DNAポリメラーゼ"がSience誌の「Molecule of the Year」に選出され、1993年、Mullis博士はノーベル化学賞を受賞した。
COVID-19のウイルスSARS-CoV-2はDNAウイルスではなくRNAウイルスであるが、オリジナルのPCRに、RNAをDNAに逆転写する酵素を組み合わせるReverse Transcription PCR (RT-PCR)で、検出可能になっている。
1960年代のBrock博士のイエローストーン国立公園での発見は、多くの科学者が「極限環境に生息する微生物」を研究するきっかけにもなり、地球上の生命の起源や他の惑星における生命の可能性に関する研究にも、広がりを見せている。
[出典] "How a discovery in Yellowstone National Park led to the development of PCR" Edmond R. . 2021-04-09. https://www.richmondscientific.com/how-a-discovery-in-yellowstone-national-park-led-to-the-renowned-technique-of-dna-amplification-pcr
[出典] "How a discovery in Yellowstone National Park led to the development of PCR" Edmond R. . 2021-04-09. https://www.richmondscientific.com/how-a-discovery-in-yellowstone-national-park-led-to-the-renowned-technique-of-dna-amplification-pcr
好奇心をベースとした基礎研究から自律的な研究の積み重ねを経て技術革新が進行したこの物語は、1980年代の「微生物ゲノムの奇妙な切り返し配列」の発見から2013年になってCRISPRゲノム編集技術が開花したごく最近の事例とともに、「未来を創造した」好例である。
2025-06-08 初稿
- 世界はそれに適応していくだろうが, 米国の科学も産業も沈みゆくであろう
Nature 誌は2023年10月25日号にて"Japanese research is no longer world class — here’s why"と題する記事を刊行した。2025年6月5日、Science 誌は"America is ceding the lead in creating the future"と題する記事をオンライン出版した。
Science 誌の論説はピーター・ドラッカーの「未来を予測する最良の方法は、未来を創造することだ」の引用から始まる。米国はこれまで、競争相手に先んじて未来を創造することで、市場で勝利を収めてきた。
米国は今、AIと量子コンピューティングで世界をリードしている。Google DeepMindやMicrosoftなど、米国に拠点を置く企業によってもたらされた。しかし、その成功は、連邦政府の資金提供を受けた大学におけるコンピュータサイエンスと固体物理学の基礎研究をベースとしている。収益を重視する営利企業がこれらの分野をゼロから始めることはおそらくなかったであろう。
米国は今、AIと量子コンピューティングで世界をリードしている。Google DeepMindやMicrosoftなど、米国に拠点を置く企業によってもたらされた。しかし、その成功は、連邦政府の資金提供を受けた大学におけるコンピュータサイエンスと固体物理学の基礎研究をベースとしている。収益を重視する営利企業がこれらの分野をゼロから始めることはおそらくなかったであろう。
トランプ政権が米国の基礎科学への資金を大幅に削減し、解体し続ける中で、米国は、他国に「より先を見据え、科学技術の力の行く末を予測し、未来を創造する主導権を握る機会」を与え、その傍観者になろうとしている。米国はもはや、画期的な成果を商業化し、それを活用して経済・社会の利益を最大化する最前線に立つことがなくなる道を歩み始めた。
各国の論文発表数でみると実は、米国は第2次トランプ政権が発足する前から、既に他国に後れを取っていた。例えば、Science 誌に掲載された論文のうち、少なくとも1人の責任著者が米国連邦政府から資金提供を受けている論文の割合は、過去7年間(2018年から2024年)で54%から44%に減少した。対照的に、中国発の論文数はこの間に倍増している。また、中国企業DeepSeekのAIに引き起こされた最近の市場パニックは、AIにおける米国のリーダーシップも決して保証されているわけではないことを示した。
4月に米国上院で行われた生物医学研究の重要性に関する公聴会では、超党派が投資継続への支持を表明したが、共和党上院議員が大統領に反抗して削減を是正するかどうかは依然として不透明である。アメリカ科学振興協会(AAAS, Science 誌を発行)のSudip Parikh CEOは公聴会での証言の中で、「化学の言語はかつてドイツ語であり、米国で化学の学位取得にドイツ語が必須ではなくなったのはここ50年ほどのことだ」、「20年後、科学の言語は何になるのだろうか?英語のままだろうか?確かなことは分かりません」と述べた。未来を創造する上で科学的知識が重要な位置を占めなくなることは、米国にとってまさに壊滅的な打撃となる。
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[出典] "America is ceding the lead in creating the future" Thorp HH (Editor-in-Chief). Science. 2025-06-05. https://doi.org/10.1126/science.adz3915
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