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2026-03-06 Nature 誌から査読論文が刊行されたことから、その書誌情報と概要を以下*に追記した。また、bioRxiv 投稿ではdCas12f-RNA-σE複合体の構造基盤がAlphaFold3予測に基づいて論じられていたが、Nature 誌の姉妹論文では、クライオ電顕により再構成された構造に基づいて論じられている。こちらについては本ブログの別記事で紹介している。
[*]  "Exapted CRISPR–Cas12f homologues drive RNA-guided transcription" Hoffmann FT [..] Sternberg SH. Nature. 2026-03-04.
https://doi.org/10.1038/s41586-026-10166-7 [所属] Columbia University (Dept Biochemistry and Molecular Biophysics, HHMI, Dept Cellular Physiology and Biophysics), Purdue University (Dept Biological Sciences, Purdue Institute for Cancer Research)
 細菌の転写開始は厳密に制御されたプロセスであり、典型的には専用のシグマ(σ)因子による配列特異的プロモーター認識に依存し、RNAポリメラーゼ(RNAP)による機能的なDNA結合につながっていく。大腸菌の7つのσ因子は広範囲に特徴付けられているが、バクテロイデス属は、正確な役割が不明な数十の特殊な細胞質外機能σ因子(σE)をコードしており、これは追加の制御層の可能性を示唆していた。
 コロンビア大学のSternberg教授が率いる研究チームは、ヌクレアーゼ不活性Cas12f(dCas12f)と複合体を形成したσE因子の協調作用を含む、RNA誘導性遺伝子活性化のシステム dCas12f-RNA-σE複合体 が存在すること、そして、そのメカニズムを明らかにした。すなわち、大腸菌で遺伝的に連鎖したdCas12fおよびσEホモログの大規模なセットをスクリーニングし、最小限の5'-G標的隣接モチーフで堅牢なガイドRNAエンリッチメントとDNA標的結合を示すシステムを発見した。σEのリクルートはdCas12fとガイドRNAに依存しており、直接的なタンパク質間相互作用を示唆していた。
 共発現実験では、dCas12f-gRNA-σE複合体がRNAPホロ酵素のプログラム可能なリクルートメントに有効であることが実証された。注目すべきことに、dCas12f-RNA-σE複合体は、必要なプロモーターモチーフが存在しない状況下でも強力な遺伝子発現を誘導し、de novo転写開始部位はdCas12fを介したRループからの相対距離のみによって定義されることである。
 この結果は、不活性化したCRISPR -Cas9 (dCas9) をベースとする人工の転写活性化システム CRISPRa 技術を彷彿とさせるRNA誘導転写機構の新たなパラダイムが自然界から浮上してきた。

2025-06-14
bioRxiv から公開されたプレプリントに準拠した初稿
[注] CRISPRiとCRISPRaは触媒活性を失活させたCas9 (dCas9)にそれぞれ転写抑制因子と転写活性化因子を融合させた合成転写因子

 コロンビア大学のSamuel H. Sternberg准教授は、「短縮型I-F CRISPR-Casを帯びたトランスポゾンを利用することで、DSBを介さず大腸菌ゲノム標的サイトに大規模なDNAをノックイン可能にするINTEGRATE(INsert Transposable Elements by Guide RNA-Assisted TargEting)」を報告するなど、CRISPR-associated transposons(CAST)の研究などでよく知られている。

 Sternberg研究チームは2024年にはトランスポゾンにコードされたTnpBヌクレアーゼが天然の転写抑制因子 (CRISPRi) として機能することを発見し、TnpB-like nuclease-dead repressors (TldR)としてNature 誌から報告していた [2023-12-04/2025-06-12 crisp_bio]。

 Sternberg研究チームは今回、天然のCRISPRa (dCas9と転写活性化因子の融合体)を発見した。すなわち、細菌には、ヌクレアーゼ不活性型Cas12f(dCas12f)と複合体を形成したσE因子の協調的な作用を伴うRNA誘導性遺伝子活性化の経路が存在することを発見した。

[Sternberg LabのX投稿を以下に引用]
 大腸菌において、遺伝的に連鎖したdCas12fおよびσEホモログの大規模なセットをRIP-seqおよびChIP-seq実験を用いてスクリーニングし、最小限の5'-G標的隣接モチーフ(TAM)で強力なガイドRNAエンリッチメントとDNA標的結合を示す系が存在することを発見した。

 σEのリクルートメントはdCas12fおよびガイドRNA(gRNA)に依存しており、直接的なタンパク質間相互作用を示唆している。また、共発現実験により、dCas12f-gRNA-σE三元複合体がRNAPホロ酵素のプログラム可能なリクルートメントに有効であることが実証された。

 驚くべきことに、dCas12f-RNA-σE複合体は、必要なプロモーターモチーフが存在しない状況下でも強力な遺伝子発現を促進し、de novo転写開始部位はdCas12fを介したRループからの相対距離によってのみ定義される。

 今回得られた知見は、CRISPR-Cas システムと転写遺伝子制御との間の予期せぬ進化的つながりを明らかにし、細菌におけるRNA 誘導メカニズムの機能レパートリーを拡大するものである。

[出典] "Exapted CRISPR-Cas12f homologs drive RNA-guided transcription" Hoffmann FT [..] Sternberg SH. bioRxiv 2025-06-10 (prepint) https://doi.org/10.1101/2025.06.10.658865 [著者所属] Columbia U, HHMI, Purdue U

[注] 今回のbioRxiv 投稿のイントロダクションが「MGEs上のノンコーディングRNAの外適応に関するミニレビュー」として興味深かったことから、別記事「コロンビア大学のSternbergら、天然のCRISPRiに続いて、天然のCRISPRaを発見(2/2)」にて、取り上げた [Fig. 1 a 引用左下図とFig. 1 b引用右下図参照]。
Fig. 1 a Fig. 1 b
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