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 過去20年間、海洋システムから回収された微生物ゲノムの数が著しく増加した。しかし、この海洋ゲノムの多様性をバイオテクノロジーおよび生物医学的応用に応用は、それほどには進んでいない。

 BGIResearchを主とする研究チームは今回、NCBI, EBIおよびJGIから2009年8月から2020年7月の間に公開されていた24,395の海洋メタゲノム(237.02 テラバイトのデータ)から43,191個の細菌およびアーケアゲノム(metagenome-assembled genomes: MAGs)を再構成した。その上で、これらの MAGs を NCBI、Ocean Microbiomics Database (OMD)、OceanDNA4,6 から公開されている海洋細菌およびアーケアのゲノムと組み合わせて、統一された地球規模の海洋微生物叢ゲノムカタログ (global ocean microbiome genome catalogue: GOMC)を構築した。

 GOMCは、は138の異なる門にわたる3,470種類の属を含む幅広い多様性を包含しており、海洋細菌ゲノムサイズの上限を再定義するとともに、CRISPR-Casシステムと抗生物質耐性遺伝子の発現との間の複雑なトレードオフを明らかにした。

 GOMCのin silicoバイオプロスペクティング(bioprospecting)により、新規のCRISPR-Cas9システム、10種類の抗菌ペプチド、そしてポリエチレンテレフタレートを分解する3種類の酵素が発見され、in vitro実験により、これらの有効性と効能が確認された。

 この研究は、地球規模のシーケンシングの取り組みによって海洋における微生物の多様性がどのように進化し、維持されているかについての理解が深まることを実証し、また、そのような取り組みをバイオテクノロジーとバイオメディシンの進歩のために持続的に活用する方法を示している。

[GOMCデータベースから同定されたCRISPR-Casシステムの詳細]

CRISPR-Casの分布

 微生物の「免疫」システムとして機能する CRISPR–Cas システムは、外来核酸の侵入を防ぐために極めて重要である。 CRISPR–Cas システムの発見以来、微生物の系統発生や多様な生態系全体にわたる分布が関心を集めている。 GOMC では、3,212 のMAGs (約 15%) から 40 種類の5,127のCasオペロンを同定したが、そのうち1,708には完全なCRISPRアレイも含まれていた。

 Firmicutes_B はCasオペロンをコードするMAGの割合が最も高かったのに対し、MargulisbacteriaやRhizobiales などの他の分類群はCasタンパク質をほとんどコードしていなかった。 これらの結果は、Casオペロンの全体的な存在と系統発生全体にわたる不均一な分布パターンに関する以前の研究とよく一致している [CRISPR関連文献メモ_2016/04/30 第3項CRISPR/Cas免疫システムが存在するバクテリアは少数派]。 

 研究チームは、Casオペロンの存在に関してこの分類上の偏りを引き起こす潜在的要因を調べるために、細菌およびアーケアにおけるCRISPR-Casシステムの存在量に影響を与える変数として以前に報告されている温度の影響を調べた。GOMC内のすべてのゲノムの最適生育温度を予測し、Casタンパク質をコードする微生物は、ほとんどの門において、Casオペロンを持たない微生物と比較して、平均最適生育温度が有意に高いことを発見した。また、CRISPR-CasシステムをコードするMAGsの割合は、好冷菌よりも好熱菌で、また外洋由来のサンプルよりも熱水噴出孔由来のサンプルで、有意に高かった。

 温度に加えて、外洋と比較して宿主関連エコシステムにおいてCRISPR-CasをコードするMAGの頻度が高いことも見出された。嫌気性生態系でも、腸内微生物叢、人工廃水嫌気性微生物叢、陸上深層地下生態系由来の微生物叢など、Casオペロンの出現率が比較的高いことが示された。これは、以前に報告されているように、宿主関連の状態や低酸素濃度が原因である可能性がある。

CRISPR-CasとARG (抗抗生物質菌遺伝子) システムのトレードオフ

 研究チームは、いくつかの微生物門において、ARGとCasを同時にコードするゲノムでは Casを欠くゲノムと比較してARG 頻度が有意に低いことを発見した。これらの門には、CRISPR–Cas 防御システムの選択に有利な環境に生息しており、熱水噴出孔に生息する Thermoplasmatota や Halobacteriota、また嫌気性環境や宿主関連環境でよく見られる Patescibacteria、WOR-3、Gemmatimonadota、Marinisomatota、Firmicutes などが含まれる。しかし、Casの存在は、残りの門では、ARGをコードするMAGの割合を減少させなかった。

 各ゲノムにおけるCasオペロンの有無だけでなく数も考慮したさらなる調査により、Casオペロンの数が、ゲノムが潜在的にコードできるARGの数の上限を制限すると思われることが明らかになった。結果として、Casオペロンの数が増加するにつれて、ARGおよび可動性遺伝要素の数は減少する傾向が見られた。

GOMCデータベースは、新たな機能性CRISPR-Cas9システムの情報源である

 GMOCデータベースからCas9のオペロンと完全なCRISPRアレイを含む88個のコンティグを特定し、そのうち36個には950アミノ酸を超えるCas9タンパク質が含まれていた。これらの中から、新たに回収したゲノムから最も短いもの(海洋微生物叢CRISPR-Cas9システム(Om1Cas9);1,054アミノ酸)を選択し、実験的に検証した。その結果、 Om1Cas9は、37 bpの成熟CRISPR RNA(crRNA)と72 bpのトランス活性化crRNA(tracrRNA)からなるガイドRNAスキャフォールドを介して、3' NNGGプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列を特異的に認識し、二本鎖DNA(dsDNA)を標的とすることが、確認された。

 Om1Cas9リボ核タンパク質複合体とdsDNA基質を22~42℃の温度でインキュベートして消化実験を行ったところ、Om1Cas9は試験した温度範囲全体でdsDNAを効果的に切断し、堅牢なin vitro編集性能を示すことが確認された。さらに、Om1Cas9配列をpX458プラスミドに組み込み、ヒト細胞を用いてその活性を評価したところ、Om1Cas9はHEK293T細胞株において、HBG遺伝子座およびBCL11aエンハンサー遺伝子座に対してそれぞれ17.08~37.44%および14.89~93.83%の切断効率を示し、β-サラセミア治療への実用化の可能性が示唆された。このケーススタディは、GOMCリソースが、様々なバイオテクノロジー用途に利用可能なCRISPR-Casシステムの探索に利用可能なことを、示している。

[出典] 論文 "Global marine microbial diversity and its potential in bioprospecting" Chen J, Jia Y, Sun Y [..] Mock T, Li S, Zhang W. Fan G. Nature 2024-09-04. https://doi.org/10.1038/s41586-024-07891-2 [著者所属] BGI Research (Qingdao, Shenzhen, U Copenhagen, Shandong U, Ocean U China, Xiamen U, Institute of Oceanology CAS, Institute of Deep-Sea Science and Engineering CAS.

[関連ニュース] "Into the Blue: BGI Group’s Deep Dive into Ocean Discovery" BGI 2025-06-08. https://en.genomics.cn/en-news-7155.html
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