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 中国は、不測の事態がない限り、世界最大の研究費拠出国として米国を追い抜く勢いを見せている。高所得国 [*1] 38カ国からなる経済協力開発機構(OECD)がまとめたデータによると、3月末の中国の研究開発費総額(gross expenditure on research and development: GERD)は米国に迫る水準だった [*2]。これは米国の科学界が現在混乱に陥る前の2023年のデータであるため、中国は既に米国を上回っている可能性もある。

 6月11日に発表されたNature Indexの2025 Research Leaders [*3] によると、上位10位のうち8位を中国の研究機関が占めている。この研究機関ランキングは、厳選された高品質の科学・健康(science and health)関連ジャーナルへの論文掲載数をベースにしている。2024年のデータによると、北京に本部を置き、中国全土に100以上の研究機関を運営する中国科学院 が、依然として首位を維持している。

 トップ10にランクインした中国以外の機関は、マサチューセッツ州ケンブリッジにあるハーバード大学 [*]と、ドイツのミュンヘンに本部を置く研究機関ネットワークであるマックス・プランク協会(MPS)の2つだけである。MPSは昨年の4位から9位に後退し、ハーバード大学の論文出版数シェアも減少した。多数の研究所を運営するパリに本部を置くフランス国立科学研究センター(CNRS)は、トップ10から脱落し、現在は13位である。 Nature Indexの分野別の分析結果によると、米国は生物学と健康科学で依然としてリードしており、中国は化学、地球環境科学、物理科学でリードしている。
[*] 中国科学院傘下の全研究機関の総合力とハーバード大学との比較はフェアでないと思われるが、2025年に入ってから、ハーバード大学は国からの補助金削減をはじめとして米国政府からの様々な攻撃にされされていることから、Nature Index 2026以後、ハーバード大学がトップ10からいつ脱落してもおかしくはない。

 Nature Indexが示したこれらの傾向は、Nature 誌自身も他の研究者も報告してきたもう一つの動向と一致している。それは、2020年以降進行している中国と米国の研究者間のデカップリングである。米国と中国の共著者による研究論文数は、同年以降、大幅に減少している。両国は2024年末に科学協力協定(a science-cooperation agreement)を再び結んだが、この協定は以前の協定よりも多くの制約を含んでいる。

 米国以外の世界の他の国々は、中国との研究協力に対して、温度差はあるが、米国とは異なるアプローチをとっている。韓国やシンガポールなど、地理的に近い国の研究者にとって、中国との共同研究は当然のことである。BRICS(ブラジル、中国、インド、ロシア、南アフリカによって設立された政府間組織)の加盟国や、アフリカ、アジア、ラテンアメリカの多くの低・中所得国においても、中国との共同研究は優先事項となっている。

 英国マンチェスター大学の社会科学者による報告書 [*4] によると、「国際的な研究協力が敵対的なアクターによって脅かされている」という懸念から、欧州諸国はより躊躇している。英国政府の委託を受けたこの報告書によると、詳細に評価した7カ国(チェコ共和国、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、スペイン、スウェーデン)において、研究機関にとって米国は依然として最有力な協力相手国でありつつ(英国は概ね2位)、中国の研究者との共同研究件数は緩やかではあるものの、増加傾向にある。しかし全体として、欧州の政策立案者は依然として中国との研究協力を安全保障上の脅威と見なしているようで、これはこれらの国々がイランやロシアを脅威と見なしているのと同様である。

 その中で今後は、各国が国際協力のメリットを最大化し、リスクを最小限に抑えるための措置を講じることが極めて重要である。マンチェスター大学の報告書は、この点に関していくつかの賢明な提言を行っている。その中には、国際研究協力におけるリスク評価のための共通基準の策定も含まれる。これを実現するには、政府間の情報共有の強化と、「研究安全保障(‘research security’)」といった用語の定義と合意が必要となる。

 中国の台頭まで、Nature Indexが追跡している研究資金総額や影響力のある論文数において、米国に匹敵する国や地域は(27カ国からなる欧州連合でさえも)、存在しなかった。もちろん、論文数は研究力の唯一の尺度ではないが、資金水準や大学・研究機関への投資と併せて評価すると、中国が先行しており、そのリードをさらに拡大する可能性もあることは明らかである。

 研究システムを守るための最良の方法の一つは、研究そのものを可能な限り透明性を持って実施し、出版することであると言えるだろう。これには、資金源やデータの公開、そして研究論文を厳格な査読にかけることが含まれる。オープンサイエンスの本質は、ある国で達成された進歩がすべての国に利益をもたらす可能性にある。これはまた、様々なレベルで複数の危機に直面している世界に必要なことであり、現時点でのデカップリングは、その終わりの始まりとなるだろう。

[*] 
  1. "世界銀行グループ加盟国の所得水準別分類-2024年~2025年" World Banl Blogs. 2024-07-01. https://blogs.worldbank.org/ja/voices/world-bank-country-classifications-by-income-level-for-2024-2025
  2. "R&D spending growth slows in OECD, surges in China; government support for energy and defence R&D rises sharply" 2025-03-31. https://www.oecd.org/en/data/insights/statistical-releases/2025/03/rd-spending-growth-slows-in-oecd-surges-in-china-government-support-for-energy-and-defence-rd-rises-sharply.html
  3. "Nature Index 2025 Research Leaders: Western institutions lose long-held top spots" Nature 2025-06-11;中国の大学が順位を上げるなか、ドイツのマックス・プランク研究所やフランスのCNRSなど、質の高い科学を牽引する西欧の主要な機関は順位を数段階下げた。https://www.nature.com/nature-index/news/nature-index-research-leaders-western-institutions-lose-top-spots
  4. "European Research Security: Threat Perspectives and the Responses of Policy Makers and Research Performing Organizations" James, A., Flanagan, K., Naisbitt, A., & Rigby, J. Manchester Institute of Innovation Research. 2025 May. https://doi.org/10.71535/d5993826-83d6-4aa2-8e23-4195ad92b629
[出典] EDITORIAL "In science’s new era, open and transparent cooperation remains key - As China continues its scientific ascent, the rest of the world should keep engaging" Nature 2025-06-17 https://doi.org/10.1038/d41586-025-01881-8: OECD地域のR&D支出は、インフレ調整後で2022年の3.6%から2023年には2.4%増加した. ....
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