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 脂質は、その構造的役割とシグナル伝達役割から、がん細胞の必須成分である1。代謝要求を満たすために、多くのがんは、細胞内での脂質合成を活性化するとともに、低密度リポタンパク質(LDL)高密度リポタンパク質(HDL)の同化を通じて循環脂質の取り込みも活性化する。しかし、がん細胞がリポタンパク質の取り込みを促進するメカニズムや、がんの増殖と進行にリポタンパク質がどのように寄与するかは、十分に解明されていない。UT サウスウェスタン・メディカル・センターを主とする米国とカナダの研究チームが今回、機能的遺伝子スクリーニングを用いて、リポタンパク質の取り込みが、がんにおけるフェロトーシス感受性の重要な決定因子であることを明らかにした。
 
[詳細]

 研究チームは、LDLとHDLの両方を取り込むHeLa細胞を用いてプール型CRISPRスクリーニングを行った。200個のがん関連代謝遺伝子を標的とするsgRNAライブラリを導入した細胞を、リポタンパク質除去培地中で、生理学的レベルのヒトリポタンパク質を添加した場合と添加しない場合で培養した [論文Fig. 1 a 参照]。sgRNAの存在量と遺伝子依存性を測定した結果、ほとんどの遺伝子の必須性は2つの条件間で変化がないことが明らかになった。しかし、グルタチオン依存性酵素をコードするグルタチオンペルオキシダーゼ4(GPX4 )は、リポタンパク質が存在しない状況において特に必須な遺伝子であった [論文Fig. 1 b, c 参照]。GPX4 は、脂質過酸化物を解毒し、フェロプトーシスを予防する酵素である。同様に、グルタチオン合成に必要なグルタミン酸システインリガーゼ触媒サブユニット(GCLC)も、リポタンパク質依存的に必須であることが示された。

 スクリーニングの結果、リポタンパク質の補充がGPX4 欠損がん細胞にフェロトーシス抵抗性を付与する可能性が示唆された。これを検証するため、CRISPRを用いて5つの細胞株(マウス細胞株2株(B16メラノーマおよびHY15549膵腺癌)とヒト細胞株3株(HeLa細胞株、明細胞腎細胞がん細胞株A-498および786-O))においてGPX4の発現を低下させた。予想通り、GPX4 欠損細胞は標準的な10%血清含有培地では生存できなかった。一方で、フェロトーシス阻害薬であるフェロスタチン-1(Fer-1)の投与によって増殖が回復し、生理学的レベルのLDLまたはHDLの補充によっても同様に増殖が回復した。また、HDLがLDLよりも強力な保護作用を示したのに対し、リポタンパク質の主要成分であるコレステロールは効果を示さなかった。すなわち、コレステロール非依存性の抗フェロトーシス機構がリポタンパク質のクラスによって異なることが示唆された。この効果の一般性を評価するため、GPX4阻害剤ML162を投与した12種類のヒトがん細胞株とHEK293T細胞を試験したところ、LDLとHDLの両方が生存と増殖を促進し、HDLの方が一般的に効果的であることがわかった。このように、リポタンパク質の取り込みが、様々な癌種においてフェロトーシスを広く防御することが、明らかにされた。

 研究チームはさらに、リポタンパク質がフェロトーシスを阻害するメカニズムも明らかにした。リポタンパク質の補充は、主にヒトリポタンパク質中で最も豊富なビタミンEの形態であるα-トコフェロール(α-toc)の送達を介して、さまざまながん種にわたってフェロトーシスを強力に阻害し、がん細胞は、細胞表面プロテオグリカンに結合した硫酸化グリコサミノグリカン(GAG)に依存する経路を介してリポタンパク質を取り込む。 ひいては、GAG生合成の阻害、あるいは表面GAGの急速分解は、リポタンパク質の取り込みを減少させ、がん細胞のフェロトーシス感受性を高め、マウスにおける腫瘍の増殖を阻害する。特に、脂質に富む悪性腫瘍であるヒト明細胞腎細胞がんでは、正常腎組織と比較して、コンドロイチン硫酸濃度の上昇とリポタンパク質由来α-TOCの増加が認められた。

 これらの結果を総合すると、本研究において、リポタンパク質の取り込みが、がんにおける重要な抗フェロトーシス機構であることが確立され、GAG生合成が治療標的となる可能性が示唆された。

[がん細胞のフェロトーシスと脂質酸化に関するcrisp_bio記事]
[出典] "Glycosaminoglycan-driven lipoprotein uptake protects tumours from ferroptosis" Calhoon D [..] Garcia-Bermudez J. Nature 2025-06-11. https://doi.org/10.1038/s41586-025-09162-0 [著者所属] U Texas Southwestern Medical Center, U Texas Southwestern, U Georgia, Rockefeller U, Scripps Research Institute, U Ottawa; 共著者の一人であるGary SiuzdakのBluesky投稿を以下に引用

Lipidomics combined with CRISPR can help decipher the complex biochemistry that allow cancer cells to evade elimination. www.nature.com/articles/s41... #Nature fruitful collaboration with @JavierGarcia-Bermudez UT Southwestern #VitaminE

[image or embed]

— Gary Siuzdak (@siuzdak.bsky.social) 2025年6月23日 23:13

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