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 精密ゲノム編集は、合成生物学と代謝工学の基盤を成す技術である。CRISPR-Casシステムによって可能になった進歩にもかかわらず、編集効率のばらつき、反復的な修正における成功率の低下、機械学習(ML)を介した最適化に適した堅牢なデータセットの生成の難しさなど、いくつかの課題が残っている。今回、大連理工大学の研究チームが精密ゲノム編集のためにCRISPR-CasシステムにDNA損傷応答システムを統合した新たなゲノム編集プラットフォーム、SELECT(SOS Enhanced Programmable CRISPR-Cas Editing)戦略を実装したSELECT GA [グラフィカルアブストラクト引用右図参照]。

 これまでの遺伝子編集効率を向上させる戦略は、編集条件の徹底的な最適化や宿主細胞内因性のDNA損傷修復遺伝子の改変が採られてきた。しかし、このような改変はゲノム安定性を損なう可能性があり、一般的に産業用途や治療用途には適さない。それらに替わる短縮型またはミスマッチ型gRNAを利用するなどの戦略によって、一塩基編集効率の向上が実現した。また、Cas9ヌクレアーゼや、よりコンパクトなCas12f1ヌクレアーゼによって、大腸菌の複数の遺伝子座で効率的なマルチプレックスゲノム編集が可能になった。 これらの事例を基に、SELECTシステムは、編集の忠実性、ライブラリーの堅牢性、および遺伝子型と表現型のトレーサビリティを重視した独自の設計戦略を採った。 

 SELECTでは、ヌクレアーゼが誘導するDNA二本鎖切断(DSB)をトリガーとして利用することで、独自に加えたカウンター・セレクション・プロセスを活性化し、宿主のDNA修復機構を恒久的に改変することなく、編集されていない細胞を排除する。 続いて、カウンターセレクション・プラスミドおよびその他の編集エレメントを除去してゲノムの安定性を維持する。 

 SELECTは、さまざまな種類のゲノム編集と互換性があり、また、gRNAの活性への依存度が低いため、さまざまな実験条件にわたるgRNAの設計が簡素になる。さらに、相同組み換え修復に短い(40~50 bp)ホモロジーアームを利用できることから、手間のかかるテンプレート構築が不要になり、ワークフローが合理化される。実証実験では、SELECTは点変異、ノックアウト、挿入において最大100%の編集効率を達成し、反復編集においては、6ラウンドの改変後も75%の効率を維持し、従来のCRISPRシステムで観察された約10%を大幅に上回った。

 SELECTはまた、これまでの戦略のように最適化に向けて多様な因子を調節する必要がなくなったことから、ライブラリーの多様性を損なうことなく最大94.2%という高効率なハイスループット編集を実現できることから、AI駆動型解析用の信頼性の高いデータセットを提供し、遺伝子型と表現型の関係を迅速にマッピングすることを可能にした。

 さらにSELECTの種間汎用性が、原核生物(大腸菌)と真核生物(出芽酵母)の両方のシステムで実証された。加えて、複数のCasシステム(SpCas9、ErCas12a、AsCas12a)との互換性も実証された。

 実証実験として、フラビオリン生合成に SELECT を適用したところ、生産量が 3.97 倍増加した。

 結論として、SELECT戦略は、かつてない精度、拡張性、そして適応性を提供する。さらに、SELECTはハイスループットゲノム工学の適合し、AI対応のデータセットを生成可能なことから、合成生物学、代謝工学、そして治療法開発における将来のイノベーションの強固な基盤を築き、次世代のゲノム編集技術を牽引する可能性を示した。

[SELECT法の概要]

 効率的なゲノム編集を実現するために3種類のプラスミドを設計した。
  • Casプラスミド:DNAの切断と組換えを促進するCasタンパク質とλ-Redシステムを帯びている。
  • カウンターセレクションプラスミド:カウンターセレクション用の毒素遺伝子を帯びている。
  • gRNAプラスミド:2種類のgRNA(gRNA1とgRNA2)を帯びている;gRNA1はゲノム遺伝子座における相同組換えを促進する;gRNA2は、カウンターセレクションプラスミド上の抗生物質耐性カセットを特異的に標的とし、DSB誘導プロモーターによって制御される。
 この3プラスミドシステムにおいては、Casプラスミドとカウンタープラスミドを有する株にgRNAプラスミドを導入することで、ゲノム編集を開始する。ゲノム標的部位で生成されたDSBは、DSB誘導性gRNAの発現を活性化し、その結果、カウンターセレクションプラスミドが切断される。これにより、DSBを経験しない細胞が選択的に排除され、選択条件下で正しく編集された細胞が濃縮されるSELECT FIg. 1 [Figure 1 A 引用右図参照]

[出典] "SELECT: high-precision genome editing strategy via integration of CRISPR–Cas and DNA damage response for cross-species applications" Liu X, Tan H [..] Liang L, Liu R. Nucleic Acids Res. 2025-06-26/07-08 
https://doi.org/10.1093/nar/gkaf595 [著者所属] Dalian U Technology
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