細胞老化は、細胞周期が停止した不可逆的な状態であり、組織の修復、老化、そして疾患において複雑な役割を果たしている。しかしながら、細胞老化の同定に一貫性が欠けていることから、その機能的解釈は発散してしまう傾向がある。
ニューヨーク大学の研究チームは今回、細胞核の形態の高解像で計測し、単一細胞解像度で老化細胞を同定する機械学習ベースのアプローチを開発した。教師なしクラスタリングと次元削減技術を適用することで、培養系、新鮮単離細胞集団、そして組織切片中の老化細胞を区別する堅牢なパイプライン
"Nuclear Morphometric Pipeline (NMP)"を構築した [Fig.1 引用右図参照]。
"Nuclear Morphometric Pipeline (NMP)"を構築した [Fig.1 引用右図参照]。 時間の経過とともに濃度を上昇させた化学物質によって損傷を受けた動物細胞を分析するAIモデルを構築し、ヒトの老化を再現した。この過程で、細胞核の複数の測定可能な特徴(核の膨張、核の密度上昇、核の円形化と不規則化など)が明らかになり、それらを総合した指標が、組織または細胞群の老化の程度と密接に関連していることが示された。なお、核の遺伝物質は標準的な化学染色で通常よりも薄く染色された。さらに、これらの特徴を帯びた細胞は、増殖を停止し、DNAに損傷を受け、酵素を貯蔵するリソソームが密集するという老化の兆候を示し、また、既存の老化抑制薬に反応した。
こうした分析に基づいてNMPを構築し単一の老化スコアNLPスコア(健康な細胞のクラスターに対して-20から+20のスケールで比較)を定義した。このスコアは、生後3ヶ月から2歳以上の若いマウスから高齢のマウスまで、健康なマウス細胞と病変のあるマウス細胞を正確に区別できることが確認された。高齢の細胞クラスターは、若い細胞クラスターよりもNMPスコアが有意に低かった。
また、損傷した筋組織が修復を受けている異なる年齢のマウスの5種類の細胞でNMPを検証した。その結果、NMPは、若いマウス、成体マウス、高齢のマウスにおいて、老化および非老化の間葉系幹細胞、筋幹細胞、内皮細胞、免疫細胞のレベル変化と密接に連動することが明らかになった。例えば、NMPを用いることで、老化した筋幹細胞は、損傷を受けていない対照マウスには存在しないのに対し、損傷を受けたマウスでは筋損傷直後(修復の開始を助ける時期)に大量に存在し、組織の再生に伴って徐々に減少していくことが確認された。
さらに、NMPが健康な軟骨細胞と老化した軟骨細胞を区別できることが確認された。老化した軟骨細胞が、変形性関節症を患う高齢マウスでは、若く健康なマウスの10倍も存在していた。変形性関節症は加齢とともに悪化することが知られている。
MNPのアプローチは、あらゆる年齢、様々な組織の種類、そして様々な疾患における老化細胞の研究に適用可能であり、細胞運命が生涯にわたる組織のリモデリングおよび変性にどのように寄与するかを容易に評価する手段を提供する。
[出典]
- 論文 "Nuclear morphometrics coupled with machine learning identifies dynamic states of senescence across age" Mapkar SA, Bliss SA, Perez Carbajal EE [..] Wosczyna MN. Nat Commun. 2025-07-07. https://doi.org/10.1038/s41467-025-60975-z [著者所属] New York University Grossman School of Medicine, New York University (Biomedical Engineering, Biology, Chemistry, Helen L. & Martin S. Kimmel Center for Stem Cell Biology)
- ニュース "AI-Assisted Technique Can Measure & Track Aging Cells" NYU Langone Health NewsHub 2025-04-08. https://nyulangone.org/news/ai-assisted-technique-can-measure-track-aging-cells
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