タイプIII CRISPR-Casシステムは非自己RNAを検出すると、酵素Cas10サブユニットを活性化する。Cas10サブユニットは、ATPからcOA(環状オリゴアデニル酸)シグナル伝達分子ファミリーを生成する特殊なポリメラーゼ活性を有している。cOAは細胞内で感染のセカンドメッセンジャーとして機能し、免疫防御を提供するために幅広い補助エフェクターを活性化する。補助エフェクターには、Csm6、Csx1、Can1、Can2、NucC などのヌクレアーゼ、CalpL やSAVED-CHATなどのプロテアーゼ、Csa3 などの転写調節因子、Cami1などの翻訳阻害因子、Csx23やCam1などの膜貫通エフェクターが含まれる。最近、エフェクターの分布が解析され、新しいエフェクターファミリーが提案されている [crisp_bio 2024-06-05]。一方で、CRISPRまたはウイルスによってコードされるリングヌクレアーゼと呼ばれる酵素は、cOAを分解してタイプIII CRISPRシステムを不活性化する。
セントアンドルーズ大学のMalcolm F White教授の研究チームは最近、Bacteroides fragilis のタイプIII-B CRISPRシステムにおいて、新しいクラスのシグナル分子SAM (S-アデノシルメチオニン )-AMPを発見した [crisp_bio 2023-10-29]。2つのアクセサリ・タンパク質(CorAファミリー膜貫通タンパク質とNrNファミリーのホスホジエステラーゼ)が、異種宿主大腸菌におけるCRISPRを介した免疫に必須であることが示された。SAM-AMPがCorAに結合すると、膜の完全性が破壊され、感染細胞の増殖停止または死に至ると考えられた。NrNは、in vitroでは、リングヌクレアーゼと同様に機能して、SAM-AMPをSAMとAMPに分解することから、CRISPR免疫応答をオフにする因子となることが期待されたが、大腸菌でのプラスミドチャレンジアッセイでは、NrNの活性がCRISPR免疫応答に必要であることが示唆された。このNrNの予想外の振る舞いは、現時点では謎として残っている。
いくつかのCorA関連タイプIII CRISPRシステム(ボツリヌス菌由来のものを含む)では、NrNがSAM-AMPリアーゼに置換されている。これまでに、ファージにコードされたSAMリアーゼが、宿主のSAMを5'-メチルチオアデノシン(MTA)とl-ホモセリンラクトン(HL)に分解し、細菌の制限修飾(RM)システムや細菌排除BREXシステムを中和することが報告されている。ファージSAMリアーゼは、PII様シグナル伝達タンパク質に特徴的な構造的特徴、すなわち3つのフェレドキシン様フォールドがβシートの三角形のコアを持つ三量体構造に組み立てられている。この構造的特徴を持つタンパク質は、三量体界面でATP、c-di-AMP、MTAなどのリガンドと結合する能力があり、同化代謝、金属恒常性、SAM分解の調節を含むさまざまな細胞プロセスに関与する。
セントアンドルーズ大学の研究チームは今回、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum )由来SAM-AMPリアーゼをin vivoおよびin vitroで解析し、大腸菌におけるB. fragilis CorA関連CRISPRシステムにおいて機能し、
SAM-AMPを特異的にHLおよびMTA-AMPに分解することを実証した [グラフィカルアブストラクト引用右図参照]。
SAM-AMPを特異的にHLおよびMTA-AMPに分解することを実証した [グラフィカルアブストラクト引用右図参照]。 MTA-AMP産物に結合したC. botulinum リアーゼの結晶構造 [*]は、SAM-AMPの認識と代謝に関する知見を提供するとともに、SAM-AMP由来分子の初めての決定的な知見を提供し、予測された5'-3'リン酸ジエステル結合を裏付けた。さらに、ファージもSAM-AMPリアーゼをコードすることを明らかにした。これらのリアーゼは、SAM-AMPシグナル伝達防御システムに対する抗CRISPR(Acr)として機能する可能性がある。
[*] 構造情報
[出典] "SAM-AMP lyases in type III CRISPR defence" Chi H [..] Gloster TM, White MF. Nucleic Acids Res. 20245-07-12. https://doi.org/10.1093/nar/gkaf655 [著者所属] University of St Andrews
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